これからの方針
水瀬さんにダンジョンの異変を報告したあと、俺たちはその足で喫茶店にやってきた。
これからのことを話し合うためだ。
特に神々の庭園については放置できない。異常の原因を早く解明しないと危険だ。
そして、この件については一つの考えがあった。
「神々の庭園の調査は、俺一人でやろうと思います」
席に着くなり、考えていたことを三人に伝えた。
「え……どうしてですか? もしかして私たち、足手まといでしたか……?」
シオンが不安そうに尋ねる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。シオンたちには他のダンジョンの調査をお願いしたくて」
「他のダンジョン……ですか?」
他のダンジョンでも異常が起こっている可能性が否定できない以上、手分けして調査に当たった方がいいはず。
三人を信頼していて、仲間だと思っているからこその提案だ。
それに、あの堕天使型のモンスターはかなり危険だった。
俺一人ならなんとかなるだろうけど、三人を守りながら戦うとなるとリスクをゼロにできない。
「……分かりましたわ。私たち三人で、他のダンジョンの調査をすればいいんですのね?」
「はい。それぞれ分かったことがあったら、また情報共有をしましょう」
「私はいつでも歓迎ですわ。もちろんタイチの家で、ですわよね?」
「いや、もちろん奥多魔支所でですけど」
「なっ……!」
いやそんな驚かれても。
まさか俺の家にシオンとカナデを呼ぶわけにもいくまい。
「え……カレンさん、もしかして佐藤さんのお家に行ったことがあるんですかっ!?」
そしてなぜか食いつくシオン。
カナデはチラチラと俺の方を見ている。少し顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。
「もちろんですわっ。私、タイチのベストパートナーですのでっ。フゥちゃんにも認められていますわ!」
「ふ、フゥちゃん……? もしかして、佐藤さんのご家族ですかっ!?」
「いや、飼ってるインコだけど」
「フゥちゃんも立派な家族ですわ!」
まぁそうだけど。シオンはそういうつもりで言ったわけじゃなさそう。
その言葉を聞いたシオンはなぜか「よかったぁ……」と小さくこぼしていた。なにがよかったんだろう。
「それに料理も一緒に作りましたし、ゲームもしましたわ」
「……カナデ、どう思う?」
「う〜ん。まぁいいんじゃない? 二人とも大人だし」
「えっ。カナデはカレンさんの味方なの?」
「そういうわけじゃないけど」
やいのやいのと言い合う三人を見て、少し離れた机を拭いていた女性の店員さんが怪訝な顔をしていた。
「と、とにかく。これからは二手に分かれて調査を進めるということで!」
場の空気を断ち切るために三人の顔を見渡しながら言う。
「タイチのそばにいられないのは不服ですが……これも試練だと思って我慢しますわっ」
「私たち、信頼されてるってことですよね?」
「ああ、三人は間違いなく強い。俺が保証する」
「えへへ……。佐藤さんにそう言ってもらえたら頑張れる気がします。ね、カナデ?」
「う、うん」
「私も頑張りますわっ!」
よし。
これで効率よく調査ができる。
ダンジョンの危険性は未知数だ。油断せずにいかないと。
◇
三人と別れ、日が落ちる前に俺は帰宅した。
「ただいまー」
「オカエリ! オカエリ!」
玄関を潜るとフゥちゃんがいつもと変わらない様子で俺にエサを催促してきて、なんだか安心した。
特に最近、いろいろあったからなぁ……。
まさか、俺がルナスターズの二人と一緒にダンジョンを探索することになるなんて思っても見なかったし、カレンさんはいまだに俺のことをジャパニーズニンジャだと思っているみたいだし。
「ふぅ……」
パソコンの前に座り一息つく。
久しぶりにブログの更新でもしようかな。
特に今日あったことは、注意喚起も兼ねて書いておきたい。
――プルルルルっ。
ブログの更新作業を進めていると、俺のスマホが着信音を鳴らす。
画面を見ると、【丸山巌】と表示されていた。
「はいもしもし、佐藤です」
『――鳳凰院だ。今大丈夫か?』
電話越しでも渋い声の鳳凰院さん。
「はい」
『クックック……そうか。いやなに、貴様の新しい武器が完成したのでな』
「お、本当ですか!」
『ああ。いつでも取りに来い。【ツヴァイ・ラーべ】は必ず貴様の力になろう……ではな』
意味深な言葉を残して、ブツっと電話は切れた。
相変わらず拗らせてるなぁ……。ていうか武器の名前、やっぱりあれで決定だったんだ。
まぁ、かっこいいからいいけど。
「となると、煉獄霧切丸はどうしようかな……」
あれはあれで結構気に入ってたから悩むな。
カレンさんみたいにサブアームとして使うか? いやでも、そんな器用なことができる気がしないし……。
とりあえず、手入れだけは続けておこう。いつ必要になるか分からないしな。
そんなことを考えながら記事の更新作業を続け、10分ほどすると記事が書き終わった。
「記事はこれでよしっと」
伸びをして一息つく。外はすっかり暗くなっていた。どうやらずいぶん集中していたらしい。
――ふぅ、さすがに疲れた。
とりあえず明日は、鳳凰院工房にニューウェポンを取りに行って、そのあと神々の庭園に潜るとしよう。




