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月影ルナ


「月影ルナ……? だれですの、それ」

「いや、知らないです。誰だろ」


 どうやらこのアプリ、チャンネル同士でメッセージのやりとりができる機能があったらしく、それを使って送られたメッセージのようだ。


 とりあえずご飯の途中だったので、急いでカレーを食べてからメッセージの続きを読む。


「『あの映像について詳しく話をお伺いしたいと思っています。もしよろしければ返信をよろしくお願いします』……か」


 あの映像っていうのは、配信のアーカイブのことか。あれは半分黒歴史みたいなもんだし、どうしようかな。特に言うこともないし……。


 それに俺はこの『月影ルナ』という人を知らない。

 メッセージからあちらのチャンネルに飛ぶと、その人物のプロフィールが表示された。


 ――【真相究明系Dtuber、月影ルナです。オカルト、都市伝説、心霊などなんでも取り扱ってます。かかってこい、超常現象!】


「オカルト系の配信者みたいですね」

「ぴぇ……私、幽霊は苦手ですの……」


 部屋の隅に逃げてしまったカレンさん。プルプルと震えている。


 月影ルナさんのアイコンは、今風で可愛らしい感じの美少女アバターだった。最近はこうやってアバターを着けて配信している人も多いらしい。俺も仮面をつけてるから似たようなものか。


「うーん……なんて返信しよう」


 メッセージにある通り、あの映像は【神々の庭園】で間違い無いんだけど、正直に言っちゃっていいのだろうか。


 もしこの人が変な人だったら、俺の情報が色々悪用されるかもしれない。最近のネットはいろいろと怖いからなあ。ただでさえネット話題になっているみたいだし。


 とはいえ、嘘をつくのも憚られる。なんで返信しよう。難しいな。


「そ、そんな怪しい人、関わらない方がいいですわ」


 カレンさんが部屋の隅っこで小さくなりながら言う。

 いや、怖いのがイヤなだけでしょあなた。


 とはいえ、この人物には興味がある。

 どうやってこのチャンネルに辿り着いたのかも気になるし。


 ……もう少し詳しく調べてみるか。

 俺はスマホのブラウザを立ち上げ、検索窓に【月影ルナ】と打ち込む。


「……ん?」


 そこで俺は衝撃の事実を知った。

 なんと、彼女が所属する事務所が、ルナスターズと同じだったのだ。どうりで名前に共通点があるわけだ。


 ルナスタの二人以外にはあまり興味がなかったから知らなかったけど、どうやらかなり有名な配信者らしい。登録者もかなりの数だ。


 とりあえず怪しい人ではなさそう。話を聞くだけ聞いてみようか。悪い人かどうかはそこで見極めよう。

 別に、ルナスターズと会えるかもとか、決してそんなことは考えていないけどね。


「とりあえず返信してみます」

「ぜ、ぜったいやめた方がいいですわっ!」

「でも怪しそうじゃないですよ?」

「ダメですっ! ……悪霊退散、南無阿弥陀仏、六根清浄、急急如律令……!」


 返信しようとした俺に、カレンさんが抱きついてきて止めようとしてきた。

 それを華麗に回避し、カレンさんは畳にべちゃりと倒れ込む。「いたいですわぁ……」


「ええと……『詳しく話を聞かせてもらえますか』っと」

「あ、ああ……世界の終わりですわ……」

「まぁいいじゃないですか。それより、スマシスでもやりませんか?」

「ま、まさかスマッシュシスターズですのっ?」

「お、知ってるんですね」

「当然ですわっ。私、こう見えてかなりのゲーマーなのですわっ!」


 食事を終えた俺たちはその後、スマシスを楽しんだ。

 ちなみに、カレンさんはとても弱かった。ゲーマーとは……?



 ◇◇◇



 ――都内某所のタワーマンションの一室。

 薄暗い部屋の中で一人、淡く光るパソコンの画面を見つめている人物がいた。


 彼女の名前は、月城未那(つきしろみな)

 真相究明系Dtuberとして活動している配信者だ。

 ルナスターズの後輩として最近注目を集めている彼女は、パソコンの画面を見つめながら呟く。


「やっぱりこの映像、フェイクじゃなかったみたいね」


 視聴者に教えてもらったチャンネル。

 そこには『ボチダン』と名乗る、真っ黒なジャージに変な仮面を被った男が、【神々の庭園】らしきダンジョンを攻略する映像が残されていた。その視聴者というのは、ボチダンの初配信を見ていた唯一の視聴者である。


 かなり旧式のドローンを使っているのか、音声や映像は荒い。だが、そこには天使型のモンスターを一瞬で倒す謎の男の姿がしっかりと映っていた。

 

 そして検証班を動員し、この映像は本物だという結論が出てから、未那はそのチャンネルにメッセージを送ったのだ。


「えっ、もう返信が……?」

 

 意外にも返信はすぐに来た。

 まさか返事がくるとは思っていなかった未那。椅子に座り直しメッセージを開く。


「『詳しく話を聞かせてもらえますか』……よしっ!」


 未那は小さくガッツポーズ。これで次の企画は上手くいきそうだと安堵する。


「ネットを騒がす謎の人物……ふふふ、私が正体を突き止めてみせるわ……!」

 

 炎上したSSS級ダンジョンの攻略ブログの管理人。

 SSS級ダンジョンを配信していたボチダンという人物。

 そしてルナスターズを助けた黒ジャージの男。


 これらは全て同一人物だと未那は推測していた。

 ネットではあの人物はマサルだという声が支持されているが、どう見てもあれはマサルではない。背格好は似ているが、動きが違いすぎる。


 それにエバーライトは最近、幻影の塔の攻略で忙しくしていることを未那は知っていた。


「ええと……『それでは、よろしければ今週末のどちらかでお会いしませんか』……これでよし、と」


 ――これで、登録者爆増間違いなしね。

 度の入っていない伊達メガネを掛け直し、未那はニヤリと笑った。



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