2-13
前回に引き続き、アーサー視点です。今回はちょっと短いです。
軽く紅茶に口をつけた後、イーヴィーはしばらく黙っていたが、やがてためらいがちに顔を上げた。
「勝手にお庭に入ってごめんなさい」
「あやまらないで下さい。いつでもどうぞと言ったでしょう?」
先日の訪問の時、彼が提案したことだ。彼女がこの家の中国庭園を見たくてやって来たのだと聞いて、『この庭はあなたをいつでも歓迎します』――と。また彼女の姿をここで見られることを期待しての言葉だったことはもちろんだ。
「それは猫としてでしょう? 人としては、やっぱり礼儀を忘れちゃいけないと思うの」
しゅんとうつむき加減に答える彼女の前には、ブラックベリーのトライフルが入ったグラスが手つかずのままで置いてある。毎度出されたお菓子はきれいに残さずに食べる、甘いもの好きの人なのに。
どうしても言わなければならないと思う言葉が、喉につかえているのだろう。それが何かは察しがつくけれど、彼女に責任など感じてほしくない。
「お茶に招待したのは僕です。ですから責めを負うのは僕の特権ですよ」
「でも、わたし、本当はあなたにあやまれたら、って思って来たのに――。あなたに甘えてばかりじゃいけないんだわ」
いったん言葉を切ると、イーヴィーは彼をまっすぐ見た。
「この間の夜は大声を出してしまってごめんなさい。完全にわたしの八つ当たりだったわ」
(ああ、やっぱり気にしていたのか)
気に病むことなどないのに、目の前の紫水晶の瞳は不安げに揺れている。だからアーサーは口元に笑みを刷いて、できるだけ軽い調子で答えた。
「あなたを怒らせた僕がいけないんです。だから、あやまられると困ります。あの夜は、僕もどうかしていました」
本当にどうかしていた。自分は彼女の何でもないのに、子供じみた独占欲に駆られて大人げない言動をした。
「具合はもういいんですか?」
「ええ。もう何ともないですよ」
嘘だ。寝苦しい夜は相変わらず続いているけれど、彼女の心をこれ以上悩ませるのは本意ではない。本音を言えば、彼女に心配してもらいたがっている自分もいたが。
(思ったより、僕は甘えたがりな性分だな)
アーサーの複雑な心中を知ってか知らずか、「そうですか……」と答えたイーヴィーの表情はどこかすっきりとしない。それでアーサーは、軽く水を向けてみた。
「まだ、何か気にかかっているような顔ですね。どうしました?」
「…………、十中八九、わたしの目の錯覚だし、話したらきっと笑われるわ」
しばらく逡巡してから、彼女はひざに目を落としたまま、自信なさげに答えた。
「僕があなたの言うことを笑ったことがありますか?」
「……ないわ」
「それなら話してみて下さい。約束します、笑いませんよ」
「わかったわ。本当に笑わないでね――」
そう前置きして、彼女はゆっくりと話し始めた。
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