第5話 社畜剣姫、クビになる
「ごめんなさいいぃぃぃぃっ……! 遅くなりましたあぁぁぁぁっ!」
わたしは慌てて謝りながら事務所に入ります。
時間はもう夜です。
DLiveのライバーの皆さんのプリズムワイバーン討伐ライブが始まっている時間です。
あの後スマホの修理をお願いしにショップに寄ろうとしたら、混んでいて二時間待ちで、その間にマックでご飯にしようと思って――
そこで、ちょっと休もうと思って目を閉じたら……意識を失って、気付いたらこんな時間でした!
徹夜明けのロケハンで、思っていたよりも疲れていたみたいです。
撮影用ドローンは帰還モードで事務所に戻したので、使えているとは思いますが、こんなの大ポカです。自分が情けないです……!
ライブの本番が上手く開始できているといいですけど――
「高井いいいいいいィィッ! てめええぇぇぇぇぇぇっ!」
「はいっ! すみません社長っ! 以後気をつけますうぅぅぅっ!」
「あぁん!? 『以後』だとおおぉぉぉぉぉっ!?」
バァンッ!
社長が机を叩いて、大きな音が響きます。
わたしはビクッと身を竦ませます。
「……うるさいわね。裏でパワハラしてようが何してようがどうでもいいけど、こっちの迷惑を考えてよね」
社長に向かって、怯まずに言い返す人がいました。
「あ……! サリーさん……!」
芦多田サリーさん。
うちの事務所、DLiveでトップの配信者さんです。
ロケハンに出る前に声をかけてくれた天川叶さんも凄い人気ですが、サリーさんは明らかに頭一つ抜けた事務所のエースです。
年齢もわたしと同じはずなんですが、本当に同じ人間なのか疑うくらい可愛いです。
ダンジョン配信者としての実力も折り紙つきです。
「う、うむ……済まん済まん、サリーちゃん」
社長が両手を合わせてぺこりと頭を下げます。
稼ぎ頭の彼女に頭の上がる人間は、この事務所にはいないんです。
わたしとしては、助けて貰ってありがたいですが。
「あ、ありがとうございます。サリーさん……」
ですが、サリーさんはジロリとわたしを睨みます。
「勘違いしないでよね、あんたを助けたいワケじゃないわよ。むしろ文句言うためにここにいるんだから」
「は、はぁ……済みません、わたしが何か……?」
「何か? じゃないわよ、これを見なさいよ!」
サリーさんが指差したのは、近くのデスクの上に置かれたモニターです。
そこにはプリズムワイバーン討伐ライブの様子が映し出されています。
「え……!? 視聴者数がいつもの半分も行ってない!?」
それに視聴者さん達からのコメントが――
”うーん。さも自分達の手柄のように盛り上がられましても……ねぇ”
”アレ見ちゃうとなぁ。インチキで神回演出してるだけじゃん、こいつら”
”多分今までの神回もひよりちゃんがロケハンしてたんだろうな~”
”正直冷めるよな~。俺もそろそろ落ちよう ノシ”
”俺も ノシ”
”私も ノシ”
「こ、コメントが荒れてる……!? それにインチキって!?」
「あ・ん・た・のせいでしょ! あんたの!」
サリーさんの指先がわたしの肩を小突きました。
「わたしの……!?」
そう言えば視聴者さんのコメントにも、わたしの名前があったような……?
「ロケハンの映像! DLiveの公式チャンネルで全部流れてたのよ! だから見てるこいつらが冷めただのインチキだのブーブー言ってるわけ!」
「えええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
そこではじめて知りました。
ま、まさかそんな事が……!
確かにテスト放送用の設定にしたはず……!
でもロケハンの様子が視聴者さんに見られていたとしたら、インチキだと言われてしまいかねないのは分かります……
「わ、わたし確かに機材チェック用のテスト放送に……た、確かにすぐに止めずに記録はしていましたけど……! と、とととと……とにかくごめんなさいっ! ごめんなさいっ
! ごめんなさいっ! そ、そんなつもりじゃなかったんです……!」
「そんなつもりでも、どんなつもりでも関係ないわけ! あんたのせいでこうなってるってのが結果! どう責任を取るつもりなのよ!?」
「ど、どどどうって……」
どうしたらいいんでしょう?
炎上の対応なんて初めてで――こういう時どうすればいいか分かりません。
「いい? イマイチライバーの抱き合わせセットの企画が炎上しようが、どうでもいいけど、こっちはあんた達が頭下げて頼むから箱に所属してやってるわけ! こっちまで巻き込まれちゃたまんないわ! あたしの看板に傷がつくでしょ! さっさと火消ししないと抜けさせて貰うわよ、こんな事務所!」
サリーさんがわたしにぐいっと詰め寄って、睨みつけて来ます。
「しゃ、社長……わたしどうすれば――」
「……高井ィ。お前はインチキをした。そうだな?」
「い、インチキ……? た、たしかにそう視聴者さんに言われても仕方はないです……」
わたしがそう答えると、社長はニチャアと笑います。
「ようし認めたな……! じゃあ、昼間のライブ映像はウチの人気を貶めるためにお前が流したフェイク映像だ! それでプリズムワイバーン討伐ライブを炎上させようって魂胆だった!」
「ええ……っ!? いや、そういうインチキでは……!」
ですが、社長は聞く耳を持ってくれません。
「我が社としては、所属社員の行った背信行為ではあるが、管理体制の不備と、何より視聴者の信頼を損ねた事態を重く考え、レアモンスターハント企画は打ち切りとする。なお該当社員は既に懲戒解雇済み――これでどうだ、サリーちゃん?」
「……ま、いいでしょ。様子見ってトコね」
「そうか……! 良かった!」
「しゃ、社長……! それじゃあわたしは……!?」
「うむ。クビだ」
社長はにっこり笑いながら、親指を首の前にスッと横切らせました。
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