第4話 社畜剣姫、ロケハンに行く4
ダンッ!
わたしは一番近いヘルワイバーンに向けて走って行きます。
俊敏な相手はそれに反応して、叩き潰そうと大きな手と爪を振り下ろしてきます。
ドガアァッ!
ですがそれは空を切り、地面を抉って大きな穴を開けてしまいます。
その時わたしは、ジャンプして攻撃をかわし、相手の肩口まで飛び上がっていました。
「やああぁぁぁぁっ!」
肩口から斜めに、木刀を斬り下ろします。
わたしが着地すると同時に、ヘルワイバーンの体が真っ二つになって崩れ落ちました。
”うおおおおぉぉぉぉっ!?”
”こいつも一撃かよ!”
”他のレアハント企画じゃ、こいつ一体狩るだけでも死闘なのに……!”
”でも、今のは斬ってるのが見えたな! やっぱ斬ってたんだ!”
”何で木刀でモンスター斬れるのかは謎だけどな……!”
”【¥10,000@ぜになげ子】逆にあの木刀が、氣の伝導率が超高い霊木の可能性がありますね。氣さえ通せば、普通の金属より硬くなります。民民書房によると”
”【¥10,000@ぜになげ子】太刀筋がカメラに映ったのは、相手の体の強度が高過ぎて、斬り抜ける速度が若干落ちたからでしょう。さすがヘルワイバーンです”
”解説乙ナイスパ!”
”ないすぱ! 動き見える分、やられ方がダイナミックだけど!”
”うん、こっちのほうが相手弱く見えるw それはそうとナイスパ!”
”【¥10,000@ぜになげ子】うわ~。言ってる間にもう一体バラバラですね”
わたしが二体目のヘルワイバーンを斬り倒すと、残りのヘルワイバーンの群れが一斉に飛び立ちました。
高い天井近くまで飛び上がって、わたしを見下ろしてきます。
”飛んだ!”
”逃げたか……!?”
”地上戦は不利そうだからな”
”距離とって安全圏から攻撃するつもりだな!”
グオオオオオオオォォォォォッ!
大きな唸り声がその場に響きます。
それを合図に、複数のヘルワイバーンが一斉に炎を吐き出します。
”うわすげぇ炎!”
”画面が真っ赤だ!”
”ひよりちゃんの姿も見えん!”
”大丈夫か!? ドローンも焼け落ちるんじゃ……!”
物凄い量の炎が、わたしに向けて降り注ぎます。
わたしはぐっと腰を落として足を踏ん張り、強く木刀を握りました。
左手を照準代わりに前に突き出し、剣を握った右手は矢を引くように引き絞ります。
「神剣寺流・大賀阿罵頭宇火!」
突き出した剣先から、巨大な氣の塊の虎が出現します。
ガオオオオオオォォォォンッ!
それが炎に向けて飛んで行き、弾け飛ぶと凄まじい衝撃波となり炎を逆流させます。
そしてヘルワイバーン達も吹き飛ばし、天井に叩きつけました。
”な、なんじゃそりゃああああぁぁぁっ!?”
”すげえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?”
”な、何か出たぞ! た、タイガーバズーカ!?”
”と、虎だったよな……!?”
”炎を一発で逆流させて、吹っ飛ばしたぞ!?”
”【¥50,000@ぜになげ子】ま、まさか全ての剣術の源流となった神剣寺に伝わる奥義を、この目で見る事が叶うとは……!”
”【¥10,000@アッパーマス夫】ま、また民民書房ですか……!?”
”【¥10,000@ぜになげ子】ええ、古の中国武術の寺院に伝わる技がバズーカという……! これは意図的なギャグですよ”
”【¥10,000@中毒者】何はともあれ凄いもん見たな!”
”【¥5,000@生ポニキ】こんな俺ですらスパチャせざるを得ない”
”皆さんナイスパ!”
”画面がカラフルだな~! みんなナイス!”
”最後のやつはやめとけw”
天井に激突したヘルワイバーン達は、力無く地上にどさどさと落ちて来ます。
もう動かず、立ち上がってきません。
これで全部倒しました。
”いやでもこれ、倒したはいいけど、今夜の本配信はどうなるんだろ?”
”DLiveのライバー達がここまで降りて来て、ヘルワイバーンの遺体と対面するのもそれはそれで面白いけど……”
”次沸くのに72時間待ちだよね?”
勿論このままでは帰れません。
ロケハンではなく、ライブをぶち壊しにしてしまいます。
わたしは木刀の剣先を地面に叩きつけます。
「えぇぇぇいっ! 散魂竜光っ!」
地面に突き立った剣を中心に光が立ち上り、それが地面を這う波紋のように広がって行きます。
眩しい輝きが静まった後――そこには綺麗さっぱり、何もありませんでした。
”えええぇぇぇぇぇぇっ!?”
”き、消えたぞ!?”
”何も残ってない!”
”今の光で消滅したのか……!?”
わたしは暫くそのままで待ちます。
すると――何もない空間からヘルワイバーンが次々と姿を見せ始めます。
最初にこの部屋に踏み込んだのと同じ、十体くらいの数です。
”沸いた!”
”な、何で……!?”
”72時間待ちの話は……!?”
”【¥50,000@ぜになげ子】あの技は、ヘルワイバーンの死体を魔力レベルに分解して、ダンジョンに還元したのかも知れません”
”【¥10,000@ぜになげ子】魔力はダンジョンがモンスターを生むエネルギー。それが満たされれば――さすが、中国四千年の武術は奥深いです”
”いや、ダンジョンが出来て十年だし! 四千年意味ないけどナイスパ!”
”とにかく再出現間隔無視って事かナイスパ!”
”解説ありがとうございますナイスパ!”
”ないすぱ! ホントに謎の資金力!”
”【¥10,000@ぜになげ子】いや、さすがにちょっとやり過ぎだと思いますが、止められないんです……この子凄過ぎです”
「まだ、現れてくれませんね……!」
わたしはもう一度、ヘルワイバーンの群れを殲滅します。
そして、散魂竜光で消し去ります。
次に出現したグループにも、目的のプリズムワイバーンはいませんでした。
わたしはもう一度同じ事を繰り返します。
これが、ロケハンです。
撮影の前に、プリズムワイバーンを出現させておくんです。
これが純粋なレアハント企画と言えるのかどうかは微妙ですが、社長も鈴木先輩もそのくらい他事務所もやってるって……
”おいもう何セット倒した?”
”5セット! 50匹くらい一人でやってるぞ、この子!”
”なんでこの腕で手取り十万のブラック労働させられてんだよw”
”たしかにw才能の無駄遣いが過ぎるよな”
普段は外注の業者さんに頼んでロケハンするんですが、うちは予算が少なかったり、社長が支払を渋ったりするので、あまり外注業者の方からの評判は良くないみたいです。
以前どうしても業者さんがつかまらない時があって、その時鈴木先輩が自分でロケハンをしていました。昔は探索者として活動していた事もあったそうです。
それを見て、わたしも出来るようにならなきゃと思って、通信教育の講座を申し込んだんです。
”100! 今ので百匹斬りだぞ!”
”ほんとすげぇ! 夢でも見てるのか俺は!”
”同接もえらい事にw”
”ほんとだ、1000万とか普段の10倍だろ!”
”ってか、こんだけやれば期待値的にそろそろあるんじゃ……”
その時です。
次に現れた竜の姿は――漆黒に輝く鱗ではなく、キラキラした虹色の輝きに包まれていました。体の大きさ自体も、ヘルワイバーンより一回り大きいです。
「や、やった! あれがプリズムワイバーンですね……!」
”””キタアアァァァァァァァァァァ!”””
”””ホントにでたーーーーーーーー!”””
”【¥10,000@……”
”【¥20,000@……”
”【¥30,000@……”
”【¥40,000@……”
”【¥50,000@……”
”【¥30,000@……”
”【¥30,000@……”
”【¥50,000@……”
”【¥50,000@……”
「ロケハン、完了です!」
わたしはドローンに飛びついて回収し、停止ボタンを押します。
さあ、帰ります!
帰社する前にショップに寄って、スマホの修理をお願いしないといけません。
――だけど無事にロケハンを終えたと思って帰社すると、大変な事になっていました。
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