第3話 社畜剣姫、ロケハンに行く3
”あっ……!”
”スマホが……!”
”踏み潰されたwかわいそす……!”
「そ、そこをどいて、わたしのスマホを返してください……! さもないと……!」
わたしは木刀を構えて巨大なモンスターに向き合います。
ぺちゃんこだとしても、回収して何とか修理に出さないといけません。
”まだスマホを諦めてないw”
”ってかこれ、ヒュージアリゲーターだろ!? ヤバいだろ!”
”こんなのに一人で喧嘩売って大丈夫なのか?”
”いや、A級ライセンス以上が何人かは必要なはずだぞ!”
”それこそDLiveのトップ勢でパーティー組まないと……!”
ゴアッ!
大きな顎がわたしを噛み砕こうと襲って来ます。
「そっちがその気なら……!」
わたしだって遠慮しません!
大顎の噛みつきをかわしつつ、相手の鼻の上に飛び上がります。
そのまま体の上を、大木みたいに太い尻尾のほうまで駆け抜けました。
わたしを見失ったモンスターが、姿を探してキョロキョロしています。
”避けた!”
”はやっ!? 一瞬で後ろまで回り込んだぞ!”
”一瞬フレームアウトしたよな!?”
”ドローンも追い切れてないって事だよな、やっぱヤバいぞこの子!”
次の瞬間――
ズシャアアアァァァ!
モンスターの体がバラバラに解体されて、音を立てて崩れ落ちます。
わたしも、単に後ろに回り込んだわけではありません。
走りながら木刀で斬り付けていたんです。
”””おおおおおおおおおおおおぉぉぉ!?”””
”””すげえええぇぇぇぇっ!”””
”瞬殺じゃん! 社畜剣姫やべぇ!”
”つーか何で木刀で相手バラバラになってんだよ!”
”そもそも俺には斬ってたように見えなかったんだけど……!?”
”俺も、凄いスピードで走ってったようにしか……”
”私もです”
”【¥50,000@ぜになげ子】斬る速さがカメラのフレームレートを超えていて、映らなかった可能性がありますね。凄いです”
”解説乙ナイスパ!”
”ナイスパです!”
”なるほど解説ありがとう!”
”あなたの懐も凄いと思います!”
”たしかに!”
「ああ……完全にぺちゃんこに……保証効くかなあ…でも、完全に無くなるよりは……」
わたしは涙目になりながら、スクラップと化したスマホを回収しました。
――でもこれは単なるアクシデントです。
本来の業務であるロケハンを、ちゃんとやらないといけません。
「……ううん、でも今は気を取り直してロケハンしなきゃ……!」
わたしは更に地下のフロアに向かいます。
”ロケハンってか、この子で本番ライブできちゃいそうだけどな”
”そこはほら、見た目の華やかさとか、トーク力も重要だからな”
”私はこの子可愛いと思いますけど。純粋な感じが”
”同じく”
”同意”
”ところで、同時接続がいつもの本番ライブより多い件”
”そうだね。いつも100万行くか行かないくらいだけど、もう越えて来てるね”
”そりゃまあ残当”
移動するわたしの前に、モンスターが立ち塞がります。
体が鋼鉄で出来ているゴーレム。
翼の生えた狼。
大きな棍棒を構えた、一つ目の巨人。
バシュン! バシュバシュバシュッ! バシュンッ!
急いでいるので、仕方ありません。力で排除して行きます。
”いやだから何で横通るだけで敵がバラバラになるんだよ!”
”おかしいおかしい!”
”マジで見えん! ホントにカメラの限界超えてんだな!”
”こんなの普段のDLiveのライブじゃ見た事ねえよ!”
”こりゃどんどん同接増えるわ……!”
”機材が違うのかも知れんけど、探索者同士の格闘技でも見た事ないしな!”
そんなこんなで、わたしは地下25Fにあるヘルワイバーンの出現ポイントにやってきました。ここが目的地で、今夜のライブもここでやります。
ヘルワイバーンは、輝く漆黒の鱗をした、二足歩行型のドラゴンです。
とても強くて、危険度は『S』だと聞いています。
スマホをぺちゃんこにしたあのワニのモンスターよりも強いと思います。
討伐目標のプリズムワイバーンは、このヘルワイバーンの更に上位の超レア種です。
世界でもここ、アキバクリスタルタワーでしか目撃情報がないそうです。
古い資料映像はありますが、ダンジョンライブでこれを討伐できた配信者さんはまだいないらしいです。
ギャオオオオオォォォォンッ!
竜の巣に踏み入って来たわたしを、ヘルワイバーン達が一斉に威嚇してきます。
十体くらいでしょうか。咆哮で空気がビリビリ震えるのを感じます。凄い迫力です。
”うっわすんげぇ迫力……!”
”これさっきのデカいワニより強いよな!?”
”正直比べ物にならん! ランクが違うしな”
”でもプリズムワイバーンは沸いてないね?”
”神回連発して来たDLiveのレアハント配信でも、さすがにプリズムワイバーンはな”
”遭遇の運要素強過ぎだからな”
”ヘルワイバーンの再出現間隔がなぁ”
”【¥10,000@ぜになげ子】プリズムワイバーンは、ヘルワイバーンが出現する際に役1%の確率で現れるとされるレア種です”
”【¥10,000@ぜになげ子】ただし一度ヘルワイバーンが倒されて、再出現するまでの間隔は約72時間です”
”【¥10,000@ぜになげ子】数時間の配信の尺では、狩ってリポップガチャは不可能です。つまりこの時点で今夜のライブは……”
”解説乙ナイスパ!”
”ナイスパ!”
”なるほど理解しましたナイスパ!”
”しかし社畜剣姫ちゃんも恐ろしいけど、なげ子さんの資金力も恐ろしいわw”
”言えてるw”
”何者なんだw”
「ロケハン本番、開始します!」
わたしは木刀を構え直します。
さあここからが勝負です……!
”ん? 諦めて帰らないのか?”
”ここからどうするつもりなんだ……?”
”【¥5,000@ぜになげ子】超期待”
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