さいしょからはじますか?
わたしはその時、興奮を抑えきれなかった。
わたしはその時、帰りの車の中で何度も何度も、箱を開いては中身を確認し、説明書を取り出して読み耽っていた。
わたしはその時、書いてあることよりもその手のひらほどの大きさの箱に詰まった期待を少しでも得ようと見ていたのだろう。
帰ってまっさきに自室へと駆け上がり、箱から取り出す。もう待ってられない。
すぐに、いますぐにでも。
この期待で膨れ上がったワクワクを止める術はこの箱に入っていた緑色に染められたプラスチックなのだ。
それを焦りながら、それでも迷わず歪に窪んだ重量感のある箱へと埋め込む。
すると、カチッと耳に気持ちいい音がする。
そのまま、流れるように横についているボタンのようなものを上へスライドする。
さっきまで真っ暗で、わたしの顔を反射していた画面に突如光が走る。
ピロンと、電子音が聞き慣れないものの、それが起動音だと分かるくらいには、これからの世界へ、どんどん期待を膨らませるものとなっていた。
聞き慣れない音、見慣れぬ姿、様々な種類の動物らしき絵。
それらを見終わってから、わたしはボタンを押す。
画面には日本語――それも平仮名でこう書いてあった。
▶つづきからはじめる
さいしょからはじめる
せっていをかえる
わたしはドキドキしながら、ボタンを押し。高ぶる気持ちを抑えきれぬまま、さいしょからはじめる。
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あれから何年経っただろう。
大人になった今、お小遣いをねだって新しいゲームを買うこともなくなった。
むしろ、お金はあるが時間に追われる日々が続いていた。
しかし、それでも。
そんな、私でも。
今でもあの頃をふと思い出して、懐かしい気持ちを湧き上がらせ、ゲームの電源を入れる。
震えるように起動したことも。
願うようにボールを投げたことも。
お祈りでボタンを連打したり、ちょっと高めのボールを使ったり。
なんでもつかまえられる、というボールだけは使わなかったり。
最初に出会った子と一緒に頑張って、勝ち上がって、進化した姿に喜びの声を上げたり。
かっこいいだけじゃない。
かわいいだけじゃない。
不思議で、不気味で。
それでも、愛らしい子達に一喜一憂したり。
あの時の思い出が巻き戻るように、蘇る中、あの時を思い出し、あの時と同じワクワクを胸に抱き、少し違うのはまたあの子と旅をしたいなという気持ちを抱き。
私は。
わたしは。
ボタンを押す。
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