はじまりのご
「いいですか初めての試合なんですから負けるのは当たり前なんですよ」
テイは俺の手を引いて歩いていた。なぜまたそんな事になっているのかと言えば
「大事なのは負けてそれで終わらない事ですよ。負けて悔しくなって次は絶対に勝つぞぐらいじゃ無いと」
これから俺は初試合に出るのだ。だからこうしてよく分からない通路を歩いて、リングに向かっている
「それより手を引かれの恥ずかしいんだけど
止めてくれませんか……」
「こんな場所で転ばれても困るんですよ。ほらいってらっしゃい!」
背中を両手でテイに押され、俺はリングまで
ふらつきながら歩いた
「さー入って来ました!今日、試合初出場の
ぬいクマ 轟鬼一太郎選手だあああっ!!!何だこの名前はふざけているのかあっ!!!」
実況の声と共に歓声が上がった。ふざけているのと言われましても
「対するは特にこれと言ったアピールポイントも無い1ヶ月前に初出場を果たしたぬいくまの フラム選手だああああああっっ!!!」
「頑張りまーす!」
そのフラムというクマは女性らしい声をしていた。こちら側からは頭の半分ぐらいしか見えないがどうやら白と黒をしているらしい
リングと通路には少々の段差があり、上がるのはちょっと大変だ、このご時世に反バリアフリーって感じ
上がって目の前にさっきのクマが居る。顔から身体にかけて一本縫い目がある。その半分が白で半分が黒の様だ
リングの中央左端にまたクマがいる。あれが
審判らしい
ちょっと眺めていると反対側のクマが一礼した
なので俺も合わせて一礼する
「では始めっ!!!」
開始の合図が響いた。とりあえず俺はリングの中央を目指してゆっくりと歩く
だが、そんな俺に内臓を揺らされる様な体当たりが襲った
ぐっ……押される!て言うかバランスが取りにくくて
「あ、手が!」
「きゃあっ!」
よろけた拍子に相手の顔を殴ってしまった。
思わずフラムがよろける
「おーっと!?一太郎選手いきなり顔を狙ったぁ!これはなかなかに外道だぞーっ!」
観客からブーイングが巻き起こった。理不尽だ、俺は初心者なのに……
「よくもやったわね……」
「いやいや、わざとじゃ無いって!謝るから」
俺は近づいて頭を下げるつもりだった。
だけどまたよろけた俺は頭を下げたつもりが
相手に頭突きを食らわしてしまった
「つ、追撃だああああっ!!!容赦がなああああっっい!!!」
実況の煽りにブーイングは更に増す。しかし、相手は不思議と怒った顔をしていない
で、どうしよう?
「何ぼっーとしてんのよ、攻撃してこないの?」
「あ、そうだった!」
俺はよろめきながらも相手に打撃を食らわせようと思い、腕を伸ばしたのだが
「わっ!足が滑っ」
「きゃっ!」
また転んでしまって相手に覆い被さってしまった様だ。お腹はぴったりくっつき、顔は今すぐにでもキスが出来るくらい近い
「うおっーーー!?何だこの試合はぁ!?訳が分からなくなってきたぞーーーっ!!!」
鼓動が早くなってきた様な……身体が全身が熱い……様な….…とにかく距離を……
「ちょっといい加減に……」
相手と目が合った。俺と同じ様な目をしていた
そして、俺たちはしばらく見つめあったのだ
その後、動いたのは相手の方だった
「分かった……もういいわ」
上に被さっていた俺をぐいっとどかしたと思えば丁寧にリングの中央へと座らせた
それから審判に向かって手を上げ、宣言した
「ギブアップ、私の負けよ」
「な、何だとっーーー!?!こんな事は史上初めてだあっーーー!!!!外道攻撃を食らったと思いきやハグをしてギブアップを宣言したーーーぁっ!?!頭が××野郎なのかー
フラム選手!!!」
実況はこの世の終わりが到来したかの如く
叫んだが、客席は静まり返った
俺はどうすればいいか分からず、しばらくの間座り込んでしまった
「勝ち……?なにこれ?」
これが俺のデビュー戦の全てだ