ふたタビ冬の日本海へ
年の瀬の夜の大阪駅は混雑していた。年末年始を故郷で過す為に夜行を乗る人が多く居た。
阪急に乗り換えて十三で下車。ここまで来れば帰って来たようなものである。「阪急」という呼び名は昔からあるが、正式に「阪急電鉄株式会社」となったのは最近であり、「京阪神急行電鉄株式会社」が今迄の正式社名であった事はあまり知られてなかったようである。
久々に店の扉を開けようとした時、中から声が聞こえてきた。
「そう言うたら、若旦那なかなか帰って来はらへんな。」
「ここで若旦那のすな。大将に聞こえたら機嫌悪なるやんか。」
「あんな奴放っとけい!忠さんも忠さんや。ウチの息子に過保護や。」
「せやから言うたやろ。若旦那の話は大将の近くでは禁句や。」
明らかに戻れる雰囲気ではない。しかも親父は忠さんに対しても不満を抱いている。幸い、忠さんは耳が遠い為に会話が聞こえなかったようである。結局、この日は帰宅せずに近隣ホテルに泊まる事にした。
一夜明けた。やはり、店に戻れる状況ではない。再び旅に出る事にした。
大阪発青森行き『特急白鳥』の券を二人分購入した。朝ラッシュの慌ただしさが落ち着いた後、『特急白鳥』は北に向かって11番線から車輪を滑り出した。
京都で更に乗客が増え、次駅の山科から湖西線に入った。流石開通間もない新路線、高規格で順調に進んで行く。しかし、風当たりが強いので遅延・運休の問題が今後の課題とあるであろう。食堂車は混んでいたが、少し待ったらテーブルに案内してもらえ、運良い事に琵琶湖の見える進行方向右側席であった。「琵琶湖の車窓」という嬉しい一品付きの昼食は実に美味であった。
ますのすしを車内販売で調達し、夕食に備える。新潟で進行方向が変わり、降雪と奮闘しながら『特急白鳥』は北を目指すが遅延が激しくなってきた。冬の日本海の荒波が容赦なく襲い掛かる。夕食のますのすしを味わった後、車内放送が流れた。
「御乗車の御客様に申し上げます。当列車『特急白鳥号』は大雪の為、酒田止まりとなります。この度は…………」
今日中に青森到着不可能となった。青森が目的地の我々はまだ傷の浅い方である。この時点で青函連絡船への乗り継ぎは諦めざるを得ない。車内では青函連絡船の払戻手続きで車掌さんに多くの乗客が追い寄せている。正に車掌さんのサイン会状態である。
酒田で足止めを食らった『特急白鳥』から下車し、ホテルにチェックインした。