冬の日本海
博多を発車した『まつかぜ2号』は工業地帯へと進み、小倉に到着した。
小倉にも博多と同じく新幹線ホームの工事が追い込み段階となっていた。同じ福岡県内の都市であるが、博多とは雰囲気が全然違う。日本の鉄鋼業を支える誇りが感じられる。それにしても、博多・小倉両駅名は市名ではないというのも特徴である。
小倉の次の門司を出ると九州ともお別れである。
関門トンネルから地上に出ると、そこは本州・下関である。そして日本海側へと進んで行く。
「今から切符を拝見致します。乗車券・特急券をお手元に御準備お願い致します。」
長距離列車定番の儀式が始まった。
「お、大阪まで御乗車ですね。」
車掌さんが私と忠さんの切符を見て少しびっくりしたようである。あくまで「少し」である。山陰本線経由で博多-大阪間を通し乗車するなど、世間一般で考えて乗客にメリットは殆どない。あるとすれば岡山での新幹線乗換が不要な点位である。新大阪-岡山間は約一年前に延伸開業し、博多延伸開業迄の期間は大抵乗換が必要となる。であるからと言って、わざわざ日本海側を迂回して直通特急に乗る人など一部の物好きだけ言っても過言ではない。即ち、私はその「物好き」の一人である。
で
昼飯時が近付いてきた。忠さんと二人食堂車へと向かった。この食堂車はエンジン付きであるが故、良く揺れる。
食事する側は少し食べにくいが、調理する側は非常に大変かと思う。防火上の点からガスコンロは設置されていない。揺れる車内にて火力の高くない電気コンロでの調理、同業者として色々ときにしてしまう。
注文していたミックスフライ定食が運ばれてきた。実に美味しい。厨房での苦労が伝わってきたように感じる。食堂車の車窓には波荒れる冬の日本海。店の皆は元気にやっているであろうか、還暦越えて昔より風邪ひきやすくなった父が体調崩していないであろうか。そう思いながら東へ進んで行った。