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物語はハッピーエンド?

リーンテ王子の勾留は解かれないままだが、ユータリス王太子殿下には特に目立った動きがなかった。

だが羽が生えたように他国だと言うのに伸び伸びと好き勝手な行動している姿が見受けられる事から不穏な雰囲気が漂っていた。


ヴィクトリアに対して何かしてくるかもしれないと警戒する日が続いたが、ニヤリと勝ち誇ったように意味深に見てくるだけで、特に何も起こらないままユータリス王太子殿下の滞在期間が着々と過ぎて行った。


そして遂にユータリス王太子殿下が帰国する前日の夜になり、見送りの為の夜会が盛大に王宮で開かれた。

我らがアレックス王太子殿下の後に、ユータリス王太子殿下が皆の前で挨拶をしているのを影でヴィクトリアは眺めていたが、いきなり大声でユータリス王太子殿下に壇上に出てくるようにと命令された。

ヴィクトリアがチラッとアレックスの方を見て意向を確認したが、そのまま指示に従うようにと頷かれたので前に歩み出た。


するとユータリス王太子殿下が皆に聞かせるように辺りを見回しながら大きな声で話し始めた。


「残念だ。貴方を素晴らしい親切な女性だと思っていたのに。

皆の者!聞いてくれ!

この女は我が弟を、カーティオ国の国王になるようにと唆して国家転覆を企んだ!

我が弟は、私がステイリル王国に訪問し、初めて間近で私の行動を見る事で、この尊敬すべき兄を蹴落とすなど出来ないとやっと自分の罪深さを自覚したのだ。

そして恐ろしくなった我が弟は、国家転覆の計画に二人でサインした文書を取り返そうとこの女の部屋に侵入したところ、事情を知らないが不審な動きをしているとこの国の騎士が我が弟を捕らえたのだ。

私にこの国を罪に問うつもりはない!

悪いのは全てこの女と我が弟だ!

私は弟のカーティオ国への引き渡しと、この女の断罪を要求する!!」


なるほど。あの黄色い百合の偽りはこの事を表していたのか。

ヴィクトリアは泰然としたままその口上を聞いていた。


そしてアレックス王太子殿下が焦ったような顔をして返事をする。


「証拠はあるのですか?

ステイリル王国の公爵令嬢を罪に問うには流石に証言だけでは足りませんよ」


その言葉にニヤリと笑ってユータリス王太子殿下が皆に見せびらかすように文書を掲げた。


「これを見てください!

これには、我が愚弟とこの女狐のカーティオ国の国家転覆計画が全て記されています!」


そうして掲げた文書には、確かにリーンテ王子とヴィクトリアのサインがあるように見えた。


「それが捏造でない証拠があるのですか?」


「詳しく其方で調べてくださればわかる事ですが、筆跡鑑定に出せば直ぐにどちらも本人直筆のものだと明らかになるでしょう!」


自信満々なユータリス王太子殿下の様子に反して、会場の人々はざわざわと不安そうにしながらもヴィクトリアの潔白を信じている様子だった。


そしてアレックス王太子殿下が徐に会場の裏手へと声をかけると、軟禁されていると思われていたリーンテ王子が正装をして堂々と壇上へと歩いてきた。


「ここまで愚かな事をするとは。

私はもう貴方の事を兄と思うことは止めました」


そう言って睨んでくる、会場にいるはずのない異母弟のリーンテ王子を見たユータリス王太子殿下が、アレックス王太子殿下に向かって叫ぶ。


「何故この大罪人を野放しにしているのですか!?」


その言葉にアレックスはある二つの文書を掲げた。


「この二つの文書に見覚えはありますね。

一つは貴方がその文書の捏造に使用したヴィクトリアが貴方の国に支援を決定した文書で、もう一つは貴方が王妃に毒を盛っていたという証拠です。

学園を襲ったカーティオ国の今牢屋にいる貴族達が毒殺計画の詳しい内容を記したこの証文の片割れを持っており、急遽探したもう片割れがカーティオ国の貴方の執務室からつい先日見つかったのです。

もう言い逃れはできませんよ」


その発言を聞いたヴィクトリアはビックリしたように目を見開いた。


そう言われると、カーティオ国に支援を約束した時の文章を殆どそのまま流用されている気がする。

だが契約書を筆跡鑑定に出しても分からないほどの巧妙な偽造に使用できる技術をカーティオ国が持っているとは思わなかった。 


「どうやったのでしょうか?」


ヴィクトリアが首を傾げながら聞くと、アレックスが顔を顰めた言った。


「ヴィーに送ってきたカーティオ国に支援を求める文書が二重になっていたんだ。それも簡単に素人が二重だと分からないようにしてあったようだ。

文書の内容も、その内容を上手く活かして付け加えている。

元々こうやって使用するために文書を作ったとしか思えない悪質な罠だ」


その発言にヴィクトリアは戦慄した。

あの文書は確か、、


「貴方ですよね、リーンテ王子」


その文書をヴィクトリアに送ってきたのはそのサインから分かるようにリーンテ王子だ。


「はい。私と貴女を嵌めるために、ユータリス王太子殿下からサインして送るようにと言われた文書が、予め国家転覆の罪を偽造しやすい内容になっており、しかも二重に細工されていたようなのです。

その文章をユータリス王太子殿下の側近に盗まれ利用されて改竄された上、自分達の命令を聞くように脅されました。

自分の身だけではなく、まだ毒殺計画の証拠が半分しか手に入っていないため母国の母の身まで危ういとなると逆らえずに、ヴィクトリアさんの部屋に入って、文書の信憑性が増すように無理矢理にでも直ぐに彼女と親密になれとの命令を聞かざるを得ませんでした。

そして何とか見張りに残った側近を騙し、貴女が王室の自室に帰り着く前に上手く巡回の騎士に見つけてもらうように仕向けて、私を安全な場所で軟禁してもらったのです。

そして貴方達が捨て駒である私が捕まっても王妃の身を案じて何も話せないだろうとステイリル王国で好き勝手している間に、アレックス王太子殿下や自国の者に協力してもらい、カーティオ国王妃毒殺計画の証拠をとうとう揃えたのです。

もう言い逃れはできません。

今回の悪事は全て母国のカーティオ国、両陛下に知らせました。

私が国王陛下に代わり、貴方に処分を伝えるようにとの事です」


「何だと!?

私は何も知らない!

お前!!ゴミ虫の分際で私を嵌めたな!?」


そう顔をドス黒く染めながら唾を飛ばして叫ぶユータリス王太子殿下をリーンテ王子は無機質な瞳で見つめた後、彼にチェックメイトを突き付けた。


「貴方は廃太子されることになりました。

それに伴い自国で更なる処分を下すので、このまま母国に強制的に送還する様にとの事です。

騎士達、連れて行きなさい」


そうして裏で控えていたカーティオ国の騎士達がゾロゾロと会場に入ってきて〝やっていない″と騒ぐユータリス王太子殿下や側近達を有無を言わさず連行していった。



「この度は、ステイリル王国に大変ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。

今回このような事があり、せっかく機会をいただいてこの素晴らしい国に留学させて頂きましたが、私は愛すべき母国に帰る事になります。

ですがこの国で受けた友誼、恩義は全て一生忘れません。

大変お世話になりました」


そう言って深く頭を下げるリーンテ王子に皆の喝采が飛ぶ。

だが、ヴィクトリアは頭に疑問を一杯に浮かべていた。

先程の彼の発言には見逃せない程の違和感がある。

最初の邂逅で結婚を申し込まれた時から何かおかしいと思っていたが、何時からかは分からないが彼に場がコントロールされている気がする。


喝采が湧き、ヴィクトリアの無事を祝う言葉やユータリス元王太子殿下を蔑む声、そして何より若き天才であるリーンテ王子が隣国で立太子するだろう事への喜びの声で溢れていた。


そんな中、リーンテ王子がポツンと立つヴィクトリアの側に颯爽と歩み寄ってきた。


ヴィクトリアに詫びながらも貴女の献身に感謝すると言いながら、跪いてダンスに誘ってくるリーンテ王子の姿に会場が熱狂したように湧き上がった。

その雰囲気に申し出を断れず、ヴィクトリアはリーンテ王子と踊り出した。


演劇を見ているかのように感動して涙を抑える者もいる中、ヴィクトリアはリーンテ王子に作り笑顔を浮かべながら無言で踊っていた。


そうすると、周りの音で聞こえないような声でリーンテ王子がヴィクトリアに話しかけてきた。


「どうでしたか?

私と貴女は今日の主役です。

悪者は勇者に退治され綺麗さっぱり消え去ったハッピーエンド。

最高の気分でしょう?」


ヴィクトリアは笑顔が崩れないように細心の注意を払いながら言葉を返した


「とんだ三文芝居ですわ。

私には喜劇を演じる才能がなく、残念に思っております。

でも例え私が演者の一人だとしても、単なる間抜けな助役でしたわ。

メインキャストは唯一貴方だけですわ」


人は真実を織り交ぜた嘘が美談であれば、無条件に信じてしまう。

ヴィクトリアはリーンテ王子が隣国の王になったらなったでステイリル王国は気が抜けないなぁと将来のアレックスに同情した。


ちなみに件のアレックスはハラハラと〝どうしよう、ヴィーがカーティオ国に着いていくとかいったら″と心配していた。

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