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温かい布団で寝たい

お忍び用の馬車は作りが荒く、慣れないヴィクトリアが弾むたびに横のヒューバートがサッと支えてくれた。

何故か目の前のアレックスが帰りは席替えをしようと道中にしきりに主張してきたが、ヒューバートが護衛として許容できませんと突っぱねていた。

確かにアレックスとレックスは自分の身を自分で守れる実力があるため、随一の強さであるヒューバートが自分の隣であることは自然なのかもしれない。

だがアレックスはこの国の次期国王だ。


「アレク、ヒューバートが隣の方が心強いなら変わりますわ。

別に私はレスターの隣でも良いですし」


そういうヴィクトリアに二人は断固拒否して言い合いを続けた。


やっと大展望台に着く頃には、ヴィクトリアはクタクタだった。

二人の馬車での言い争いもそうだが、ユータリス王太子殿下の案内やリーンテ王子の事件、自室の捜索など様々な出来事が積もりに積もってしまい、普段と比べ物にならないほどの身体的な疲労と心的疲労がヴィクトリアにのしかかってきている。

皆忙しくしていたはずなのに、何故自分以外はピンピンしているのか。ヴィクトリアは他三人の底なしの体力に恐れ慄いた。


大展望台に入ると、夜遅いと言うこともあり人が殆ど居なかった。

宝箱のようなものがないかと、皆で必死に隅々まで捜索するが時間が過ぎるのみで何も見つからない。


ヒューバートはとうとう閉館間近になり、辺りに誰もいなくなったので、通気口の中や屋根上まで確認してくれたが、特に何もないと頭に埃をつけたまま降りてきた。

ヴィクトリアが苦笑しながらヒューバートの頭から埃を取ると、アレックスが自分の頭にもゴミがついたと報告してきた。


「仕様がないですね」


そう言ってレスターがゴミを取ると、アレックスが鋭い目つきで彼を睨みつけた。

ヴィクトリアは不思議そうな顔をして静かに怒るアレックスと、声を出さずに爆笑しているヒューバートを眺めた。


ヴィクトリアも精力的に探したが、結局閉館まであと五分になっても何も見つからず、疲れ切りしゃがみ込んでしまった。


そして真正面の大きな窓ガラスから夜景を見ると、キラキラと光り輝く美しい城下町の風景が広がっていた。

アレクとリーンテ王子はこのくらいの身長の時にこの風景を一緒に見たのかな。

そう微笑ましい気分で下を眺めると、低くなった視界の真正面に自分の家が見えることがわかった。


「リヒター家の邸宅も見えるのね」


その言葉を聞いたアレックスが〝そういえば!″と言って隣にしゃがみ込んできた。


「この展望台から見える、夜に一際明るい建物は先程ヴィーが言った通り、リヒター公爵邸だ。

敷地が丸く大きな土地をしており、邸宅を中心に円形に庭が広がる特徴的な形をしている」


「なるほど!!そしてリヒター公爵邸の裏側に縦に長く扇状に続いているのは教会ですね。

そう言われれば確かに伝統的な鍵穴の形に見えます」


そのアレックスとヒューバートの発言にヴィクトリアはそういえばそうねと頷いていた。

あの教会は今日ユータリス王太子殿下を案内した教会だ。

古くからあるリヒター家と親交の深い教会で、墓地もありヴィクトリアは大叔父の弔いに良くお祈りに行っている。


「つまり、リヒター公爵邸か教会にあるんですか?」


そのレスターの言葉に悔しそうにアレックスが答える。


「いや、それだけでは予測が正しかったとしても広すぎて見つけられないだろう。

もっと場所を絞らなければ」


その言葉にふーんと考えていたヴィクトリアは、ふとここからだと明るいリヒター邸と教会の間にポツンと暗く沈んで見える林を思い出した。


「二つの建物の間に暗い点のように見えるのはリヒター公爵家所有の林ですね。

リーンテ王子もあの教会に留学してきてすぐに祈りに来てくださったと神父から聞きましたし、林の存在を知っていてもおかしくはありません。

あの林は聖なる林とも呪いの土地とも言われていて、リヒター家の私有地という事もあり立ち入るものが殆どいませんから、何か仕掛けるならあそこかもしれませんね」


「確かにユータリス王太子が訪問すると予測できる上に人通りの多い教会や、警備の厳しいリヒター公爵家に何かを仕掛けられるとは思えない。

鍵穴の形の中に、点のように際立って暗く見える林に何かあるということは充分に考えられるな。

その林に行ってみよう」


ヴィクトリアは青ざめた。

この後また林の捜索かと。


すると、ヒューバートが声を上げた。


「これ以上遅くなると、周りのものにバレるかもしれません」


ヴィクトリアは瞳を輝かせてそうだそうだと内心喝采を上げた。

その通りだ。しかもあの深夜に差し掛かり真っ暗になっている林で何が見つかるというのか。


「だが暗いからこそ大展望台から眺めて林にあるかもしれないと気づけたのだ。

夜にしか見つけられないものなのかもしれない。

一度林に行って軽く一周してから王宮に帰ろう。

今日何もなければ明日の朝また行くしかないな。

一刻も早く何かを見つけなければ」



そうして悲しそうな顔をしたヴィクトリアは皆に促され馬車の中に吸い込まれていった。



林に降りると、やはり暗くて何も見えなかった。


ヴィクトリアが呪いの土地と言われる事もある場所に夜中にいる恐ろしさに震えていたが、三人は何も気にせずどんどんと林の中に入っていく。

あの三人は身体も心も鋼でできているのだろうか。

一人で取り残されるのも怖いので、疲れて棒のような足を引きずってヴィクトリアは後を追った。


そのまま一行が進んでいくと中心部付近で突然林が開け、美しい泉が見えてきた。


「こんな泉があったのですね」


一同が感動したように見惚れていると、月の光が差し込んできた。

そしてヒューバートが目を凝らすと、泉の中に月の光をキラキラと反射する何かを見つけた。


「宝石のようなものが泉の中に見えますね」


ヒューバートが文官の服を手早く脱ぎ始めた。


「私がとってきます」


そしてヴィクトリアが目を逸らしている間に、泉を泳いで幾ばくもせずにヒューバートが取ってきてくれたものをアレックスが受け取った。


「宝箱のようだな」


そうして一同が恐る恐る鍵を差し込むと、するすると鍵が空いた。

中には二つの文書が入っていた。


アレックスが中身を見ると、暫く沈黙した後に強張った顔をして言った。


「これは私に任せてもらえないか?」


真剣な瞳で皆を見つめるアレックスに頷いて、三人は文書の内容を聞かなかった。



そうしてまた揺れが酷い馬車に乗りさらに疲れが増したヴィクトリアは、やっと用意してもらった新しい部屋に辿り着き、ホッとしたようにソファに飛び込んだ。


「はしたないですよ」


そのヒューバートの小言にも反論する気力がなく、暫くゴロゴロとソファとお友達になっている疲れ切っているヴィクトリアを優しい顔で見つめたヒューバートは、頑張ったとヴィクトリアの栗色に染められた髪をポンポンと撫でた。

ヴィクトリアはふふっとくすぐったそうに笑った後、明日は筋肉痛だなと思いながら思いっきり伸びをした。

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