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何が偽りなのか

リーンテ王子は事件後に軽く聴取を受けた後、証拠隠滅を防ぐために元の彼の客室とは別の客室で軟禁されているようだった。

罪を犯した他国の王家の人間を扱いかねているらしく、今のところリーンテ王子は客室から出れないもののまだ牢に入ることもなく、厳しい聞き取りも受けていないらしい。

ヴィクトリア達が見張りの騎士に許可を取って部屋に入ると、リーンテ王子が暗い顔をして椅子に座っていた。


「リーンテ王子、大丈夫ですか?」


ヴィクトリアが声を掛けてもリーンテ王子はノロノロと顔を上げたまま何も返事をせずに口を紡んでいる。


そんな彼に懇願するようにアレックス王太子殿下が話しかけた。


「きちんと弁明するんだ!

このままでは君は母国に強制送還される事になる。

そうすると君は良からぬ企みで友好国の王家血縁の姫の部屋に侵入したとされ、これ幸いと君が邪魔な人々によってカーティオ国で重い処罰が課されるかもしれない」


そう言って必死に言い募るアレックスにヴィクトリア達は少し驚いていた。

アレックスは小さい頃から良く外交で世界を飛び回っている行っているイメージはあったが、それほどリーンテ王子と親しかったとは。


「何も言う事はありません」


むっつりと黙り込むリーンテ王子に憤るアレックスを尻目に、ヴィクトリアはふむと考え込んでいた。


私の部屋に好き好んでリーンテ王子が入るとは思えない。

前提としてあそこは一週間の仮住まいの予定で大して貴重なものは持ってきていないので、リーンテ王子が入っても得られるものはそうそうないだろう。

彼は薬を盛られて私の部屋に置いていかれただけの唯の被害者で、あわよくば私の醜聞も作れればという杜撰な計画かと思ったが、、、

今日は私が遅くまでユータリス王太子の付き添いで外出する事は王宮の多くの者が知っている事だし、第一リーンテ王子が自分の意思だったと主張しているため辻褄が合わない。


話によると、ヴィクトリアの部屋から出るところをリーンテ王子は王宮の巡回の騎士に見咎められ、捕まったらしい。

その騎士はそこを巡回する担当のもので、不審な所はなかったようだ。

怪しいと睨んでいたユータリス王太子殿下の王宮に残っていた側近は、殆ど部屋から出なかったようで、もちろんリーンテ王子とも接触していないらしい。


だがここに来るまでにヴィクトリアに声を掛けてくれた王宮の文官の一人が、今日王宮で見慣れない鳥が何かを運んで飛んでいたと言っていた。

カーティオ国ではその種類の鳥が手紙を秘密裏に飛ばす事に使用されているらしく、リーンテ王子はやはりユータリス王太子側から脅されていると思うが、リーンテ王子の証言するつもりが無い様子から察するに、恐らく証拠は残っていないだろう。


「リーンテ王子、このままカーティオ国に帰ると殺されますよ」


そうヴィクトリアが話しかけると皆がギョッとして此方を見つめてきたが、唯一全く動揺しないリーンテ王子を見てヴィクトリアは目を細めた。

この様子では何も言わないだろう。時間の無駄だ。


「リーンテ王子、貴方は自分の身を含む沢山の人々を犠牲にしても守りたいものがあるのですね。

でも貴方のその行動が本当に守りたいものを守ることに繋がっているのかはキチンと考えてくださいね」


それだけ言ってスタスタと歩いて部屋を出ていくヴィクトリアの後ろ姿を、捕まってから初めて顔色を変えたリーンテ王子がじっと見つめた。



ヴィクトリアは考え込んでいた。

このままリーンテ王子が失脚するような事があれば、あのユータリス王太子に権力が集中する。

カーティオ王国は復興半ばであるため、強く愚かな統治者の誕生に耐え切れないかもしれないし、ステイリル王国も唯では済まないだろう。



騒ぎの発端は私の部屋だ。

一応部屋の中に細工されたようなものはないと調べてくれた騎士が言っていたが、改めて調べる必要があるだろう。


既にヴィクトリアの為に別の客室を整えてもらっているが、早速捜索をしようと件の部屋に戻ると、ヒューバートがキョロキョロとしながら〝事前の話通り、特に何も無いように見えますね″と話しかけた。

だが部屋に帰っても何もする事が無い上、自分が関係しているところで冤罪が起こるかもと思うと落ち着かず、ヴィクトリアは部屋の中を確認し始めた。

ヒューバートにも協力してもらいかなり時間をかけて二人で捜索したが、何も見つからずヴィクトリアは諦めて溜息をついた。

既にプロが調べているのだ。無謀だった。

ヴィクトリアはクタクタに疲れたのでソファに座ると、机の上に侍女が用意してくれたのだろう美しい百合の花が挿してあった。

百合の花か、、そういえばリーンテ王子も百合の花とか言っていたな。

そう思いながら見ていると、少し珍しい黄色い百合の花が此方を向いている。

黄色い百合、、、陽気と偽りが花言葉だったか。


偽り?不吉な花言葉ね。


「ヒュー、この百合、、」


私って王宮の侍女にも嫌われているのかしら?


冗談めいたその言葉が喉元まで出ていたが、ヒューバートがいきなりバッと百合に飛びついた。

そんなにイマイチな花言葉がある花だからって怒らなくても綺麗な花なのにと慌てるヴィクトリアを完全に無視してヒューバートは百合の花を分解し始める。

ヴィクトリアはヒューバートがおかしくなっちゃったと涙目になったが、彼が徐に百合の花から何か黒いものを取り出したので仰天した。


「何、それ?」


「リーンテ王子が残した物だと思います。

鍵のようですね」


ヴィクトリアは目を点にした。


「流石ね、ヒュー。

どこの鍵かしら?」


「ヴィクトリア様がヒントに気づいてくださったおかげです。

既にリーンテ王子の部屋は粗方調べられていますから、鍵穴はどこか別の場所にあるのでしょうね。

とりあえず、この部屋では何も見つからなかった事にして後でアレックス王太子殿下にこっそり報告しましょう。

相手方にバレて証拠隠滅に走られたら困りますから」


〝良いですね?″と退出を促すヒューバートを〝頼もしいな。でも私が気づいたって?″と疑問を浮かべながらもヴィクトリアは勢いに押されて頷いた。



そしてその後アレックス王太子殿下に鍵の事を伝えると、思い当たる節があったようで思案しだした。


「随分昔に彼とステイリル王国で会った折に、共に大展望台に行って上から城下町を眺めた時、彼が〝この国は宝箱のようだ″と言ったのだ。

その言葉を聞き私はこの美しい国を守って行くと決意を新たにした事から、とても印象に残り覚えている」


「彼はヴィクトリア様に〝自分なら白い百合を贈る″と学園で言っていた事をヒントにして百合に仕掛けをしていました。

アレックス王太子殿下の記憶にある彼の発言が鍵穴の行方と関連している事は充分に考えられます」


そうして一同は相手方の証拠隠滅を防ぐためにこっそりと大展望に向かうことにした。

疲れ切っていたヴィクトリアは頭の良い方々に任せて自分は行きたくないと眠気に目を擦った。

だがリーンテ王子が普段の会話からヒントを出しているのだとしたら、少しでも情報を生かすために皆で行ったほうが良いとのアレックス王太子殿下の判断が出たため、お上の言う事には逆らえないとヴィクトリアの強制参加が決まった。

その後の協議の結果、大展望まで隠密に行動するには今のままの身なりでは目立ちすぎるため、全員変装することになった。


ヴィクトリアは侍女の服を着て、目立つ黄金の髪を染め粉で染めて栗色にした。

そして皆と顔を合わせると、三者三様の装いに驚いた。


いつも王太子然とした格好をしているアレックスは、今は地味な下級文官の服を着ている。黄金の髪色はヴィクトリアと同様に栗色に染められている。

背筋を丸めたり伊達メガネをかけたりで工夫してはいるものの、醸し出されるオーラが唯の文官に見えないなとヴィクトリアは苦笑した。


ヒューバートは宰相府の文官の服を着ていて、エリート文官の装いになっていた。

いつもの武闘派マッチョではなく、ちゃんと頭脳派に見える。

燃えるような赤い髪はベレー帽でカモフラージュされており、全体的に賢そうだとヴィクトリアは感心した。


ついでにレスターは眼鏡を外し一般の騎士服を着ており、周りへの溶け込み用は彼がなんだかんだで一番のように感じた。かなりの剣術の腕のはずだが不思議と弱そうだ。


ヴィクトリアは完璧な自分の装いに自信満々でどうだと胸を張ったが、皆に〝それでは絶対にバレる″と言われ、心外だと驚愕の顔をした。


「何処をどう見ても侍女でしょう」


そのヴィクトリアの発言に〝全てだ!″と口を揃えて言われたので、ヴィクトリアはすごすごと次々と彼らから渡される伊達メガネや髪をまとめる為のリボン、体型を隠すためにお腹に巻くタオルなどを抱えて、支度を再び整えることにした。


「まぁ、これくらいまでだろうな」


「はい。これ以上はどうやっても無理でしょう」


ヴィクトリアは頑張って準備したにも関わらず散々な言われように目を半目にしながらも、大展望台へ行くためのお忍びの馬車に乗り込んだ。

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