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急転直下

ユータリス王太子殿下がヴィクトリアに対しよからぬ事を企てているという情報は、ステイリル王国側で既に掴んでいた。


「だが、奴は何をしてくるだろうか?」


「彼の本命はリーンテ王子だろう?

同時に両方の醜聞を作るとかではないか?」


ザワザワとステイリル王国の重鎮達が話し合っている。

会議に参加しているアレックス王太子殿下も話し合いを真剣な眼差しで見つめていた。


その真剣な空気に反し、ヴィクトリアは王家から出された伝説のお茶菓子である絶品チーズケーキに真剣な顔をして集中している。

ヴィクトリアは度々王宮を訪ねているにも関わらず、未だ出された事のなかったチーズケーキを感動しながら食べていた。


「ヴィクトリア様、聞いていらっしゃるのですか?」


隣のヒューバートのコソコソと言われた言葉に真剣な顔をしたままヴィクトリアは彼に耳打ちをした。


「私にやれる事はもうやっているから、慌ててする事は何も無いわ。

それに私の身を守ってくれる貴方の腕を信じているから」


そのヴィクトリアの言葉にヒューバートは虚をつかれた顔をした後、真っ赤になりながら〝当然です″と頷いた。


ヴィクトリアの言葉は真実をついていて、ユータリス王太子殿下が何か企てているという情報以外ない今、彼女にやれる事はもうやっていた。

王宮内では一介の公爵令嬢にゾロゾロと護衛を連れ歩く権利はない為、それを見越してリヒター公爵家で最も強い剣士を既に側に着けている。

またユータリス王太子殿下への監視はこの会議の雲行きから容易に推測できるが、王宮全体でかなり厳しいものになるだろう。

ヴィクトリア基金を活用した後に王宮に勤めている者も多いため、昨日の夜会のユータリス王太子殿下の態度を見たり、聞いたりした者達は、口々に彼に細心の注意を払っておいてくれると言ってくれている。

加えてヴィクトリアは元々無駄な行動はしないが、今回は何が起ころうともヒューバートを連れ歩き、予定外の行動は一切しないと決めている。


ヴィクトリアは周りの人々の有能さを知っている。

私がやるべき唯一の事は、無駄な行動をして皆の予定を崩さない事だと超然とした表情でチーズケーキをひたすら食べていた。


その姿を見て、狙われていてもいつも通りの彼女だなと張り詰めていた空気が緩み、皆は声を出して笑い合った。



そしてとうとうヴィクトリアが王都の名所をユータリス王太子殿下に案内する日が来た。

物々しい護衛隊を連れて王都の名所を周り、説明をする。


ヴィクトリアの説明をニコニコと聞いていているユータリス王太子殿下には、今のところ不審な行動は見られなかった。

気になる点は彼がいつも連れている側近は何故か今日は一人しかいなかった事だ。

最初にカーティオ王国側からもう一人は体調を崩して部屋に残っていると説明された。


王都の民衆達が絶えず一行に声援を送ってくれるので、ユータリス王太子殿下も手を振り返した。

だが彼は、案内係でしか無い筈のヴィクトリアへの声援が自分より多い事にまた苛ついている様子を見せていた。


ステイリル王国側の人間はそのユータリス王太子殿下の態度に緊張を高めていたが、ヴィクトリアは平静な顔をして淡々と案内を続けるのみだった。


そして王都の教会の一つに一行は到着し、この教会はカーティオ国で起きた戦争で亡くなった人々の慰霊をしているとヴィクトリアが説明を始めた。

表面上を取り繕うとしながらも興味の無さが滲み出る生返事をしていたユータリス王太子殿下は、側近の一人に何かを耳打ちされた後、いきなりニヤニヤしながら〝自分にも祈らせて欲しい″と言い出した。


そうしてユータリス王太子殿下が祭壇の前に歩み寄ると、いきなり不自然な程によろけて慰霊碑を蹴倒した。


場が騒然とする中でヴィクトリアは暫く呆然としていたが、ユータリス王太子殿下が謝罪の言葉を発しながらも、此方を見てニヤッとするのを見て珍しく燃えるような怒りを感じた。

だがその時大きな声が横から聞こえた。


「何をする!!」


ヒューバートの叫びに同意するように怒りを隠さないステイリル王国の人々を、スッと片腕を上げて止めたヴィクトリアはニッコリと笑ってしゃがみ込んでいるユータリス王太子殿下に手を差し伸べた。


「お若いのに足元が覚束ないようで、心配ですわ。

杖が必要でしたら何時でも仰ってください。

ステイリル王国の王都には良い杖のお店もございましてよ」


その彼女の言葉に激昂し〝貴様!!″と大声をあげるユータリス王太子殿下を側にいる側近が必死に止める側で、ヴィクトリアは戸惑って涙を堪えているようだった。


「申し訳ございません。

私のご案内ではお気に召さなかったようですね、、」


そう言ってヴィクトリアは深く頭を下げた。


周りからはザワザワと民衆の怒りの声が聞こえてくる。


カーティオ国の戦争に出征し死んでいった人々の弔いの慰霊碑を蹴り飛ばし、身内をその戦いで亡くしているヴィクトリア様に向かってカーティオ国の王太子が怒鳴りつけるとは。


民衆の危うい空気を流石に察して口を閉じたユータリス王太子殿下は〝帰る!!″と言い放ち、王宮へと馬車に乗り込んだ。


ユータリス王太子殿下はさっさと出発してしまった為、ヴィクトリアは悲しそうな顔をしたまま別の馬車に乗り込む。

その光景を見た人々は心配そうにその後ろ姿を見送り、口々にユータリス王太子殿下はヴィクトリア様を蔑ろにしていると憤った。


馬車が出発しても俯いているヴィクトリアに、護衛のため同乗しているヒューバートが掛ける言葉を探しながら何とか〝大丈夫ですか?″と尋ねると、バッとヴィクトリアが急に顔を上げた。

びっくりして心臓が止まりそうになったヒューバートは、手を胸に当てて自分の心拍の無事を確認した。


「勿論大丈夫よ。

あの間抜けな顔、見た?

カーティオ国はあの人が国王になったら終わりね」


そう言ったヴィクトリアをギョッとした顔をしてヒューバートが眺める。


「え、、、?

もしかして、、?」


「うん!あれは全部悲劇のヒロインの演技よ演技!

あの場で怒鳴りつけたらこっちが悪者になっちゃうからね。仕方なく。

でも危ないところだったわ。

ヒューが先に声を上げなかったら私があの人を罵倒していたかも。ありがとう、ヒュー」


そう言った後、その冷えた青い瞳に燃えたぎるほどの怒りを秘めながらヴィクトリアは馬車の外を眺めた。



「今日は大変お世話になりました。

少し気が動転していたようで、お恥ずかしい限りです。

明日からもよろしくお願いします」


そう言って困ったような顔を作ってみせるユータリス王太子殿下に、ヴィクトリアは悲しそうな顔をして〝いいのです″と首を横に振った。



ヴィクトリアが部屋に帰る前にアレックス王太子殿下に呼び止められ談話室に入ると、王宮のヴィクトリアが今使用している客室に侵入者出て、その者が捕まったと説明を受けた。


あの片割れの側近かと思ったがヴィクトリアがそう聞くと、アレックスはとても言いにくそうな顔をした後に意を決したように言った。


「リーンテ王子だ」


ヴィクトリアは濡れ衣だろう何も疑わずに思ったが、リーンテ王子自身が罪を認めているのだと困りきったようにアレックスが話した。

ヴィクトリアが詳しい話を聞くためにとりあえず本人と話してみたいと言ったので、皆でリーンテ王子を勾留中の部屋へと急いだ。

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