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相変わらずとぼけてる

薔薇事件の後も、ヴィクトリアの周りでは様々な不思議な事が起こった。

その件を受け、何故か急遽特例で護衛騎士を帯同する事がヴィクトリアにも認められ、学園にヒューバートが毎日付き添う様になった。


「アレクですら護衛を連れていないのに、リーンテ王子に続いて私なんかが護衛を連れるなんて身分不相応だわ。

そう思わない?ヒュー」


「思いません。

我が国に王女様がいない今、貴女は我が国随一のお姫様です。

帯剣もしていない貴女に護衛が着くのは何もおかしい事はありません」


その真剣な声に叱られた様に首をすくめたヴィクトリアは、仕方なさそうに溜息をついた。


最近本当不思議な事が立て続けに起こる。

あの薔薇の花束の後、机に手紙が入っていたり、プレゼントが机の上にあったりと、無記名の何らかが届けられる事が多かった。

その度に薔薇の時のシャルの様に、アレクやローラなどが自分が置いたものだと回収していくが、不自然だなと流石に気付いていた。


「ねぇ、ヒュー」


その固い声にヒューバートは〝ヴィクトリアをいつでも害せるぞ″と脅迫されている事に、流石にこのとぼけているお姫様でも気づいたかとピンと背筋を伸ばしたが、ヴィクトリアは全く見当違いな事を言い出した。


「もしかして最近私、、、

虐められているのかしら?」


目を点にしたヒューバートは恐る恐る主君に聞いた。


「何故、そう思うのですか?」


そのヒューバートの問いかけに難しい顔をしてヴィクトリアは答えた。


「あの薔薇、赤色だと単純に思っていたけど、よく思い出してみたら黒赤色だったのよ。

しかもトゲがついたままだった気がするの。

黒赤色は憎悪とか嫌な意味があるし、トゲがついているのはちょっとした嫌がらせになるじゃない?

しかも十七本の薔薇で出来た花束って、絶望的な愛を示すのよ。

絶望的な愛って何か分からないけど失恋とかかな?

なんとなく不吉で怖いわよね。

他も手紙もプレゼントも中身を見る前に回収してもらっちゃったけど、中は呪いの様なものだったのかもしれないわ!」


ヒューバートは記憶力が良くて知識が豊富でも、矛先が見当違いだと全く役に立たないなと辛辣な事を思った。


「お姫さん、気にしないでください。

貴女は虐められませんし、貴女をいじめる様な人間はいずれ破滅します。

それより、来週に迫ったユータリス王太子殿下のステイリル王国滞在での随伴について考えてください。

特例で私も付き添える事になりましたが、安心できる状況ではありませんから」


その言葉にズーンと落ち込んだ顔をして、ヴィクトリアは暗い声で〝そうね″とだけ言って物思いに耽った。


そんなヴィクトリアを横目で見ながら〝まぁこの図太さならユータリス王太子の脅しにも気づかないか″と内心失礼な事を呟いた。

ステイリル王国でユータリス王太子の付き添いをする予定のヴィクトリアを思うがままにする為に、優位に立とうと脅迫目的で様々な物が贈られている事に、この抜けている所のある主人は気づいていないらしい。

学園のセキュリティを強化しても無駄で、自分はお前を何時でも害する事が出来るのだぞという、恐れを知らない他国での堂々としたアピールである。


我が主君に対し、随分と不遜な輩だ。

だが我が主君は何も気にしなくて良い。貴女に気づかれないうちに危害を取り除くのが私の役目だ。

そう考えながら、ヒューバートは拳を握りしめた。


そのようなやり取りをしながらヴィクトリアが登校すると、今日は机に何も無かった。

ほっとしながら椅子に座ると、校舎の外から切り裂く様な叫び声が聞こえてきた。


「ヒュー!」


その声にヒューバートはこの状況で主君を置いていきたくないと一瞬ヴィクトリアを振り返ったが、その強い瞳にチッと舌打ちをして窓に足をかけた。


「了解!

お姫さんは何もなければとりあえずここで待機してください。

でも何かあったら直ぐに逃げてくださいね。

即解決して即戻ってきます」


そう言って三階の窓から飛び降りるヒューバートに教室から驚きの声が上がったが、頓着せず軽々と着地したヒューバートが叫び声が聞こえた方向に向かって凄い速さで走り出す。


ヴィクトリアは心配そうにその姿を見送った後、ヒューバートの言いつけを守ってとりあえず席に着いた。


だがクラスメイトの突き刺さる視線を感じ、顔を上げると皆が不安そうにしてこちらを見ている。

登校している王家はおらず、上位貴族はヴィクトリアだけだった為、ヴィクトリアはお腹から声を張り上げた。


「大丈夫ですよ。

ヒューは我がリヒター領随一の腕を持つ騎士です。

騒ぎは直ぐに収まります」


そう言っていつも通りにっこりと笑うヴィクトリアにほっと息をついた人々は日常のざわめきを取り戻していった。


少しして校内放送で騒動が収まったと流れた後、かなりの勢いでドアをバンっと鳴らしてヒューバートが教室に戻ってきた。


少しぼろっとしているが、あっという間に戻ってきた上に無傷の様でヴィクトリアは安心した。


「大丈夫?」


「勿論大丈夫です。

ご報告もありますが、その前に急遽ヴィクトリア様を学園長室へ呼ぶ様にと此方へ戻ってくる途中で捕まえた教師から聞き出したので、私もご一緒いたします」


そう言ったヒューバートにまた学園長室かと気が遠くなったが、仕方なくヴィクトリアは立ち上がり歩き出した。



「お越しいただきありがとうございます」


そう言って立ち上がる学園長にヴィクトリアは強烈な違和感を覚えた。

何か違う、、、?あ、髪だ!カツラを被っている。


ヴィクトリアは目線がつい頭の方にいってしまうのを抑えながら学園長の口元を見るように意識した。

近寄ると吹き出しそうなので、入り口付近に立ったまま問いかけた。


「御用とお聞きしましたが」


固い表情をして声を掛けるヴィクトリアを横目で見たヒューバートはスッと剣の柄に手をかける。


「何故そんな入り口に居るのですか。

ヴィクトリアさん、此方へどうぞ」


そう言ってお茶菓子をソファの前の机に置く学園長を無視してヴィクトリアは入り口で直立したまま、込み上げる笑いを堪える為に苦しそうな顔で、悔しくも戦略的撤退を求めようとしてヒューバートに話しかけた。


「ヒュー」


その声を受け弾かれた様に走り出したヒューバートが学園長を飛び越し、学園長室の屋根を剣で突き刺す。


ヴィクトリアは仰天して再び呼びかけた。


「ヒュー!!」


その声を受けヒューバートは油断せずに脚を止めないで次から次へと屋根上の気配のある場所を、雨の様に降ってくる暗器での攻撃を巧妙に防ぎながら追撃する。


ヴィクトリアは何?この状況?と思ったが、とりあえず驚きで笑いの虫は去ったので、無意識で学園長室に入り込み、平穏を求めて座り心地の良いソファにそっと座って出されていた生クリームのケーキを食べ始めた。


ヒューバートは遠くでは守りにくい事を察して此方に近寄ってくれた主君に相変わらずだなと感心してニヤリと笑いながら、主君と証言者である学園長を守りながら危なげなく場を制圧した。

学園長は腰を抜かしながらも狂人を見る様な目でヴィクトリアを見つめていた。


「騒がしいですが、とりあえず食べましょう。

脳を働かすのには糖分が必要ですものね」


因みにヴィクトリアの脳みそはビックリした事で活動を完全に停止しており、今活動しているのは勝手に動く口と活発な胃ぐらいである。

モグモグと食べるヴィクトリアの前で我に返った学園長は土下座をした。


「大変申し訳ございませんでした!!

ここ一ヶ月家族を人質に取られ脅されていて、今日も外部のものを手引きして騒動を起こしたり、暗殺者が待ち構えているこの部屋にヴィクトリアさんを誘き出すことに加担してしまいました!

どうにか騒動の制圧からヒューバートさんが貴女の元に戻るまで時間を稼ごうと悪あがきしてからここに呼び出しましたが、結局この様な危険な目に合わせてしまい、本当に申し訳ございません!」


そう言って頭を地面につける学園長を〝あ!カツラ取れる″とヴィクトリアは必死になって止めた。


「止めてください!そんな事なさらなくて大丈夫です!

それより貴方のご家族が心配です。

直ぐに救出に向かいましょう」


そう言ったヴィクトリアの元に、暗殺者と思われる数人の捕縛を終えたヒューバートが歩み寄った。


「我が主君の暗殺に手を貸したとなると、どうせ一族郎党無事ではいられないでしょう。

なのでそんな事を心配する必要はないのではないですか?」


そう言って殺意に目を光らせながら学園長を睨みつけるヒューバートに返す言葉もなく学園長は地面に頭を擦り付け、家族の助命を求め涙ながらに謝罪する。


そんな時、涼やかな声がかけられた。


「貴方のご家族はもう助け出しましたよ」


そのアレックス王太子殿下の声にハッと学園長が頭を上げた。


「なーに自分の手柄みたいに言ってるの!

この僕が!事件のタネに気づいたんだからね」


「私達もかなり力を尽くしました」


「えぇ、一人だけヴィクトリア様の株を上げようなど烏滸がましい」


そう言ってゾロゾロとシャルル、ローラ、キャサリンに加えてついでにレスターが学園長室に入ってくる。


「リーンテ王子は証拠集めに尽力してくれていますし、皆の力ですね」


そう言う眼鏡にアレックスはふんっと鼻を鳴らした後、学園長に静かに話しかけた。


「清廉潔白な人ほど、悪事に関わった時に責められる事になります。

ですが罪が無くならない事と同様に、決して貴方の今までの功績は無くなったりはしません。

貴方やご家族がこれからも生きていける様に、ヴィーも望んでいると思います。

だろう?ヴィー」


その声掛けによく分からないがこの狸親父もその家族もカツラも助かるらしいとコクコクとヴィクトリアは頷いた。


「本当に!!本当に申し訳ございませんでした!!」


そう言ってまた危ういカツラごと頭を床に擦り付ける学園長にヴィクトリアは〝カツラ、もう誤魔化せないほどにズレちゃった″と諦観からくる慈悲深い微笑みを浮かべながらそっと手を差し伸べた。


「いいのよ」


その女神の如き寛容さにその場の者は皆感動してヴィクトリアを褒め称えた。

彼は然るべき罪で裁かれるだろうが、このヴィクトリアからの許しは彼の今後の宿罪の道を助ける事になるだろう。


その間リーンテ王子はヴィクトリアの兄ウィリアム、キャサリンの兄ルーカスの兄兄コンビとこの事件に関わった貴族の確たる証拠を掴む事に成功していた。

残念ながらユータリス王太子には届かず、歯痒い思いをしながらも、中々尻尾が掴めなかったユータリス王子の生家に繋がる、カーティオ国でも悪事に手を染めていた複数の貴族を処罰するきっかけを掴んだのだった。

その事により、ユータリス王太子に数々の悪事を許していた大きな基盤の一つを崩す事に成功した。

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