話を聞いておけばよかった
やっと一週間が経過し、学園に行けるようになった。
ヴィクトリアが登校すると様々な生徒達が話しかけてくれる。
「ヴィクトリア様!おはようございます!
元気になられたようでよかったです」
「ヴィクトリア様!もう大丈夫なのですか?
無理しないでくださいね」
ヴィクトリアは有り難く思いながらも、捻挫くらいで皆んなに心配してもらってしまい少し申し訳ない気持ちで教室に急いだ。
教室に入るとキャサリンが駆け寄ってきてくれた。
「ヴィクトリア様!大丈夫ですか?」
いつも通り良い子だと感動しながら〝大丈夫よ″と笑って答えたヴィクトリアを見ていきなりキャサリンは呻きながら蹲った。
仰天したヴィクトリアは逆にキャサリンを慮り、顔を覗き込もうとした。
「大丈夫?キャサリンのが体調が悪いんじゃない?」
焦りながら立ち上がったキャサリンが凄い勢いで首を横に振りながら後ずさって行く。
「いえいえ!!とんでもございません!
それでは、失礼いたします!」
そう言いながら去って行くキャサリンを呆気に取られた顔でヴィクトリアは見送ったが、まぁいいかと席に座った。
次々と声を掛けてくれるクラスメイトに少し頰を染めながらお礼を言うヴィクトリアに、皆トキメキが隠せなかった。
そんな中、とぼとぼと見慣れぬ騎士を連れながら登校したリーンテ王子がヴィクトリアを見てパッと顔を明るくして駆け寄ってきた。
「ヴィクトリアさん!
この前は大変失礼いたしました。
申し開きのしようもありません」
そう言って頭を下げるリーンテ王子に仰天したヴィクトリアは急いでリーンテ王子に顔をあげるよう言った。
「此方こそ足を捻ったくらいで休んでしまい、リーンテ王子を煩わせてしまい申し訳ございませんでした。
この通り快調致しましたので、もう気にしないでください。
お見舞いの果物、美味しくいただきました」
そう言って笑うヴィクトリアにリーンテ王子は感動したように瞳を潤ませ、再度感謝の言葉を送った。
「あの事件を受け、特例で騎士をつけてもらう事になりました。
学園の出入りも実在の女生徒に成り済ました犯行という事で、より厳しくチェックが入るとの事だそうです。
今後ご迷惑をお掛けしないように気をつけますので、これからも仲良くしていただければ嬉しいです」
そう言って美麗な顔を近づけるリーンテ王子にヴィクトリアは止めてくれと思いながらコクコクと頷いた。
アレックス王太子殿下はまたカーティオ国の対応に駆り出されたようで、学園に来ていないようだ。
カーティオ国は政治上の問題がまだまだ尽きないらしい。
次の世代に交代したら交代したで怖いなぁとドキドキしたが、考えていても仕方がない。
クリストフ先生にも声を掛けてもらい、ヴィクトリアは恐縮しながらもありがたいなぁと頬を緩めた。
あっという間に半日が終わり、この前会う事ができなかった歴史学者に会う時間になった。
外部と会う事ができる部屋に入ると、厳しい顔をした意外とムキムキな成年の男の人がいた。
「先日は急にお会いできなくて申し訳ございませんでした」
「いえ、大変な状況だったと世間でも噂されております。
ご無事で何よりです」
強面の顔を緩めて言ってくれたので、ありがたいとヴィクトリアは自己紹介した後に早速話を始めた。
「連絡致しましたように、先日の論文の件でお尋ねしたくてお呼びいたしました。
率直にお聞きしますが、ステイリル王国の危機がまだ終わっていないという論文に根拠はあるのでしょうか?
古文書の記載とありましたが、私はそのような話を聞いた事がありません」
その言葉に頷きながら学者のエーリンは見覚えのある書物を出した。
「似たような力があったと歴史に明確に残っているのは、エレキドキア帝国だけである事はヴィクトリア様もご存知だと思います。
今年までエレキドキア帝国は、二百年前の不思議な力の消失と同時に噴火で滅亡してしまったのだと私も考えていました。
ですが実は消失と同時というのは明確な根拠がなかったのです。
二百年前というと直近に感じますが、その時の状況を示した歴史書には劇的にしようと脚色があるものなどが多く、その記載を信じてしまい、消失と同時に噴火があったと今まで信じられていたのです。
ですがこの古くからあるエレキドキア帝国の古文書にある表記を細かく解読すると、二百年と三ヶ月後の噴火だったと捉えれる表記があるのです」
ヴィクトリアが実際に覗き込んでみると確かにそうとも捉えられると納得した。
ヴィクトリアはかなり多くの言語を習得しており、エレキドキア帝国語も習得している。
その言語能力はかなり重宝されており、他国からの若年の要人が来るときに、ヴィクトリアの評判の良さから相手に指名され、ステイリル王国の社交界の窓口役などとして駆り出される事も多い。
大叔父が戦争に赴いた時、広い公爵家でやる事もなかった為、書庫に篭って何か自分にもできる事はないかと思い、その時外交に寄与できればと言語を必死で勉強したのだ。
「この古文書の写しは我が家にもあるので、そちらも確認してみます。
ヴィクトリア基金の方から今回の謝礼をお支払いいたしますね。
また何か追加でわかる事があればご連絡いただければ嬉しいです」
ヴィクトリアはエーリンに礼をして帰そうとした。
だがエーリンは厳つい顔を強ばらせ、ムキムキの身体を膨張させながら動かない。
ヴィクトリアはちょっと怖いなと思ったが、その時緊張して固まっていたらしいエーリンがいきなり頭を下げ自分をヴィクトリア基金の学者チームに入れてくれないかと大きな声で聞いてきた。
ヴィクトリア基金では様々な学者や技術者がお互いに協力する事で新しい事が発見できるよう、研究機関を持っている。ヴィクトリアは基金の方に連絡しておくから書類選考と面接を受けてくれと言い、ホッとしながら部屋を後にした。
その邂逅の後、ヴィクトリアは悶々と考えていた。
カーティオ国の政治不安がステイリル王国に飛び火するのではないかと。
だがカーティオ国の王太子は馬鹿だが、うちの王太子は聡明だ。
きっと大丈夫だと自分を納得させながら教室に戻った。
教室ではある速報で賑わっていた。
「カーティオ国の王太子がステイリル王国に来月来るらしいよ!
急遽ステイリル王国では歓迎のパレードと夜会を開くんだって」
「名目は交流を深めるとか言ってるけど、大丈夫なのかな?
大きな声では言えないけど、ヴィクトリア様の怪我の原因って、、」
ヴィクトリアはタイミング良く嫌な事を聞いてしまったと思ったが、
気にしない気にしないと自分に暗示をかけた。
そんな時、アレックス王太子殿下とリーンテ王子の金と銀が眩い二人がやってきた。
「ヴィー、一週間お願いできるかな?
本当は嫌なんだけど、どちらにせよヴィーに負担をかける事になってしまうから。
私は当分忙しくて、サポート出来ないんだ」
「ヴィクトリアさん、すみません。
ご迷惑をかけないと言ったのに、このような事を頼む事になってしまって、、」
ヴィクトリアは何か分からない中、お決まりの安請け合いで快諾しようとしたが、珍しく嫌な予感がして深く内容を聞かず断ろうと思った。
「申し訳ないのですが、ご期待に沿う事はできませんわ」
そのヴィクトリアの言葉に二人は驚いたような顔をした後、重ねてヴィクトリアに頼んだ。
「隣国の王太子は女好きで、とても危険なんだ。
ウィリアムも暫く忙しいし、ヴィーを守る人が居ないから不安なんだ」
その言葉に深く考えず結構ですと重ねて主張するヴィクトリアに二人は根負けしたように頷いた。
「ヴィーがそこまで言うのだから、考えがあってのことなのだろう。
相手の指名を断って機先を制されるより受けて立った方が事が有利に運ぶと思ってるのだな。
流石ヴィーだ。
私達も万全の準備をして備えよう」
「そうですね。
私達もしっかり目を配るようにします。
ヴィクトリアさんにだけ負担を負わせません」
その流れにおかしいな?とヴィクトリアが寒気がした時にはもう時は既に遅く、ヴィクトリアは、件の狂気的な王太子がステイリル王国に滞在する一週間の間の、通訳兼サポート役として正式決定してしまったのだった。
彼らの提案が仮病で一週間休む事だと分かっていたらヴィクトリアは絶対に断らなかっただろう。




