赤らめたり青褪めたり
ヴィクトリアがふと目を開けると、目の前には何故か自室の天井が見えた。
やってしまったとベッドから飛び起きようとした時、隣に控えてくれていたらしい侍女の大きな声が聞こえた。
「ヴィクトリア様が目を覚まされました!」
そう言って扉の外へと駆けて行く侍女に〝へ?″とヴィクトリアが驚いていると、ドタバタと大きな音を立てながら血相を変えた父と兄が部屋に飛び入ってきた。
「大丈夫か?リア!
刺客を身体を張って倒すなんて無茶をして!」
じっとりとした目で一言も話さず此方を睨んでくる父と、なでなでと小言を言いながら高速で頭を撫でてくる兄にヴィクトリアは目を白黒させた。
「え?お仕事は大丈夫なのですか?」
「リアが倒れてからもう半日以上経っているんだよ!
悠長に仕事なんてしていられないよ!」
そう言われれば辺りが少し暗くなってきているような気がする。
ヴィクトリアが動き出そうとすると、ズキっと右足が痛んだ。
「痛っ」
自覚していなかったがかなり酷く挫いていたようで、医師の見立てによるとまだ当分腫れが引かないそうだと言われた。
父と兄は仕事をほっぽり出してきたもののヴィクトリアが目覚めた今、流石にそろそろ仕事に戻らなくてはならないらしく、抵抗しながらも従者に引っ張られ二人共去っていった。
びっくりしたが、心配してくれたのは嬉しいとヴィクトリアは手を振って二人の後ろ姿を見送った。
そして入れ替わりのように医師が入ってきた。
足の湿布を貼り直してもらい、一週間は右足を使わないようにと厳命し去っていった。
よく寝て元気になったし暇だなぁと思ったヴィクトリアは、ふと思い出して侍女に声をかけた。
「ヒューバートはもう王都に来ているかしら?
良かったら部屋に呼んでくれる?」
その言葉にじっとりとヴィクトリアを見つめた侍女は、無理しないようにと公爵様が仰っていましたのでくれぐれも短時間でよろしくお願いしますと言いながらも呼びに行ってくれた。
「お姫さん、大活躍でしたね」
そう言って戯けながらも瞳の奥に真剣な光を灯したヒューバートに罰が悪そうにヴィクトリアは肩をすくめた。
「まずは報告を。カーティオ国での経済上の仕事は一先ずひと段落しました。
ですがまだ政治不安は続くでしょうね。
貴女が今回こんな目にあった事からも分かるように、あちらの王太子サマは相変わらず大暴れで、ステイリル王国との摩擦も恐れておりません」
「そう、リーンテ王子も大変ね」
「カーティオ国では貴女に危害が及んだ事で、国民人気のあるリーンテ王子だけではなく、戦争の英雄のちい姫様をも害したと世論が沸騰してきているようです」
「もう情報が広まっているの?
私の事まで?」
「貴女の情報は、今年貴女がアネモネを公爵邸の花壇に植えるように庭師に頼んだ事まで世界中に広まっていますよ。
おかげで世界は空前のアネモネブームでアネモネの価格が高騰しています」
「あはははは!
ヒューバートもウィットが効いた事を言うわね。
面白かったわ!」
そう言って冗談だと思いながら笑うヴィクトリアに可愛いと眦を緩めながら〝残念ながら冗談ではないけど″と内心呟きながらもそのまま否定する事はなかった。
その後一言二言話していると急に眠気がきた為〝ごめん。寝る″とモゴモゴと呟きながらヴィクトリアは布団に潜り込み目を閉じた。
心配そうにヒューバートはそっとヴィクトリアの熱を測るようおでこに手を当てた後、静かに氷水と布をもらいに出ていった。
足の捻挫から熱が出たようで夜もぐっすりと寝たヴィクトリアは、翌朝スッキリと目を覚ました。
すると侍女がテキパキと身の回りを整えてくれる。
「ヒューを呼んでくれる?
今後の動きについて相談したいの」
「お医者様の許可が出たらそうしますね。
とりあえずお医者様をお呼びします」
そういってすすっと去って行く侍女の後ろ姿を目をパチクリさせながらヴィクトリアは見送った。
無事医師から動かなければ多少仕事をしても良いと許可を貰ったので、部屋にヒューバートを呼び出した。
「早くから悪いわね。
久しぶりの王都はどうかしら?」
「中々良いですよ。
というか今回の件もあったのですから、そろそろ此方に私が常駐しても良いのではないですか?
下手したら巻き込まれてお姫様が死んでたかもしれないんですよ。
このままでは何のために師匠に騎士として鍛えてもらったのか分かりません」
そのヒューバートの真剣な顔に負けたようにヴィクトリアは頷いた。
「そうね。本当にごめんなさい。
ヴィクトリア基金も隣国に関しては一先ずやれる事は終わったから、これからは王都にいてくれるかしら?」
そう言ったヴィクトリアにニッと笑ってヒューバートは片膝をついた。
「お姫様の仰せのままに。
命を賭けてお守りします」
「命は賭けなくて良いわ。
私と貴方の身を同時に守るくらいできるでしょう?
私の唯一の専属騎士なのだから」
そう言ってヒューバートに手を差し出すヴィクトリアに不意打ちを喰らったように目尻を赤く染めたヒューバートは、ヤケになったように手に軽くキスをして立ち上がった。
「そういえば、お姫様に沢山のお見舞いの品が届いていましたよ。
アレックス王太子殿下が見事なアネモネの花束を送ってくださったと、貴女以外には塩対応な侍女達もメイドと一緒になってはしゃいでいました」
アネモネの花束、、、?
アレックスはアネモネの花を植えてから公爵邸に来た事は無いのに?偶然、、、?
ゾッとしながらヴィクトリアはヒューバートに懇願するように問いかけた。
「ヒュー、昨日の話、冗談よね?」
ニヤァと笑ったヒューバートはヴィクトリアに明るく返事をした。
「値段が高騰していて手に入れる事が難しいアネモネを花束にして送ってくださるんですから。
凄く愛されてますね!お姫さん!」
ヴィクトリアは顔を青褪めながら呆然としていた。




