騒がしい日々
始業式の一週間後には、例年盛大な入学式が開かれる事になっている。
王立学園では生徒の自主性が重んじられている為、入学式も生徒達が中心となって準備する。
始業式を終えたばかりの生徒達がマニュアルを参考にしながらも、王立学園生のプライドを掛けて毎年工夫を凝らし、慌ただしく準備をする。
今年はアレックス王太子殿下とヴィクトリア公爵令嬢がいる事から、二人に任せれば安心だと周りから見られていた。
ヴィクトリアは勿論、お上である王太子殿下の言う事を聞くつもり満々だった。
だが始業式の後、王宮から連絡があり急にアレックスが隣国でのトラブル対応に駆り出される事になり、暫く学園に来れない可能性が濃厚になってしまった。
「ヴィー、押し付ける形になってしまってすまない。
出来る限り早めに帰ってくるから、無理をしないようにね」
ヴィクトリアはじゃあその付属品の地味に有能なレスターを置いていってくれと内心願ったが、忙しそうな幼馴染に流石に言えず、捨てられた子犬のような瞳で彼らを見送った。
準備の為の、残り少ない日々を無駄にする訳にはいかない。
ヴィクトリアは人々の期待の目を一心に受けながら、取りあえず分厚いマニュアルを開いた。
目を細めなければ見えない程の細かい文字に気が遠くなってきたヴィクトリアは、周りの有能な、愛嬌・人脈・権力に満ち溢れている人々にどんどん振っていくことに決めた。
「ローラは物品の確保を任せます。倉庫にある椅子も数が足りるか分からないので、今日設営しながら確認しておきますわ。足りなかったら注文致しましょう。入学式用の花の発注は早めにしてください。毎年周辺の学校で争奪戦が起こるみたいです。先生に学校と縁の深い業者を聞いて、安く済ませれるように交渉してきてもらえるかしら?
キャサリンは進行表をマニュアル見て作成してください。それができたらパンフレット作成をお願いします。この前落としたノートに書いていた絵とか、凄く上手だったからセンスあると思います。
今年は誰も読んでいない文章は簡単にして、お洒落な挿絵が入っている記念になるようなパンフレットにしたいですね。今年は予算をちょっと良い紙とお洒落なカラー印刷に掛けようかと思っていますわ。キャサリンのいつも可愛い格好しているご友人達にもどんなパンフレットが良いか聞いてくださる?
リーンテ王子は当日の新入生歓迎挨拶をお願いします。カーティオ国の王子に挨拶していただけるとなったら、新入生も非常に喜ぶと思います。
他の方達は私と一緒に会場の設営を今からやっていきましょう!」
そうして先んじて優雅に歩いていくヴィクトリアを尊敬の目で生徒たちが見ていた。
ヴィクトリアはその後四苦八苦しながらマニュアルを夜な夜な読み込み、バンバン周りに仕事を振る事で何とか入学式の準備を整えた。
そしてあっという間に来た入学式当日、ヴィクトリアは少し疲れた顔をしながらも何とか登校した。
そして無事に最終チェックを終えた後、暫くして新入生が登校してくる時間になった。
受付の担当の生徒達が新入生にパンフレットを渡しながら、一人一人に祝辞を贈っている。
ヴィクトリアは何故かパンフレットへのサインと握手を求めてくる生徒達に四苦八苦しながら対処をした。
入学式は壮観だった。例年と変わらない予算だったが、交渉や人脈、権力によって最大限に予算が活用され、来賓した保護者達も圧倒されていた。
因みにパンフレットには、例年通りの内容の他、ヴィクトリアの父を始めとする学園の卒業生やアレックス王太子殿下などの在校生達の華々しい活躍と絵姿も載せられている。
その中でもヴィクトリアのみ掲載されているページが見開き1ページもあり、彼女の行った圧倒的な輝かしい功績と、それを具現化したような女神のような絵姿が記されている。
多くの新入生はプレミア本だと感動に打ち震えていた。
保護者用のパンフレットは予算の関係で例年通りの内容の為、式の後は幾らでも払うからあのプレミアのパンフレットを下さいと貴族たちが列を成した。
勿論ヴィクトリアはキャサリンを初めとする多数の生徒から自信作ですと言われ、クリストフ先生も最終チェック済みと聞いたのでパンフレットを横着して見ていなかった。
いくつかのトラブルはありながらも無事に入学式を終え、ヴィクトリアは片付けに追われていた。
新入生や在校生が入り混じりながら交流して明るい騒めきで満ち溢れている中、アレックスが慌てたように登校してきた。
「ヴィー、結局間に合わなくて申し訳ない。
片付けだけでもさせてくれ。
リーンテ王子も、挨拶が本当に素晴らしく感動したと皆から聞きました。
我が国の生徒たちの為にありがとうございました」
そして意外と仲の良い金の正統派の王子様美形なアレックス王太子殿下と、銀の色気のある艶やか美形なリーンテ王子を周りの生徒たちは眩しそうに見ている。
ヴィクトリアは権力者達の会合に身の置き場が無かったのでさり気無く片付けに戻ろうとしたが、話が時々振られるので中々撤退のタイミングが掴めず苦心していた。
そんな時、ヴィクトリアはとても懐かしい美しい音色の音楽が聞こえる事に気づいた。
ヴァイオリンの音のようで、周りの人々も恐ろしい程魅力的な音に引き込まれてしまう程の音色だった。
「この音、、、」
ヴィクトリアがそう呟いた時、大きな声が聞こえた。
「やっと気づいてくれたの?リア。
式の前に挨拶しても全然気づいてくれないんだもん。困っちゃったよ。
今年やっと僕も高等部に入学したよ。
もう直ぐ約束の十八歳だね!
結婚する日が待ち遠しいな〜」
あ、やっぱりユーラトス辺境伯家の嫡男のシャルルだ。
ヴィクトリアが〝久しぶり″と言って手を振るのを信じられないものを見る目で皆が見ていた。
「ヴァイオリン聴けるのは嬉しいけど、ちゃんと時間になったら自分の教室に行くのよ」
「そうする!
まだ時間あるから今度はリアが好きな曲を弾くね!」
そう言ってヴィクトリアが外見から気づかない程大人びた、フワッとした金茶の猫っ毛に亜麻色の猫のような瞳をした青年はニコッと笑ってヴィクトリアに話しかけた後、聞いているだけで楽しくなるような曲を弾き始めた。
ヴィクトリアは微笑ましそうに笑った後、目を閉じてヴァイオリンの音に聞き惚れていた。
「ヴ、、ヴィー!!
結婚ってなんだい?」
アレックスの必死な声にキョトンと目を開け首を傾げた後、ヴィクトリアは何の事はないような顔をして説明した。
「小さい時よくユーラトス辺境伯で夏休みを過ごしていたんですが、その時酔っ払ったうちの父が私が十八になったら大々的に婚約者を募集して、集まった者達に過酷な試練を課し、その結果で決めると言ったんです。
そしたらシャルが〝リアは猫みたいな自分の事を好きって言っているからリアは自分と結婚するんだ″って言い張ったので、面倒になった父がお前が十八になったらなって言ったんです。
彼が十八の時に父の予定通りに行けば私の婚約者はその一年前に既に決定されているので父の体の良い断り文句だったのですが、その試練の下りは聞きてなかった事にして、その時私と結婚すると約束したって言い張ってるんです」
「酷いよ!リア〜。
だってそれが約束じゃなかったら、リアが十八の時に僕は十七だから、僕が十八になるを待ってたらリアの婚約者決まっちゃってるって事じゃん!
そんなの絶対嫌だし」
そう言うブンブンと横に首を振るシャルルに変わってないなとクスッと笑ってヴィクトリアは言った。
「じゃあ今日、お父様にシャルは十七でも求婚させてくれって言ってたって伝えておくわ」
そのヴィクトリアの発言に顔を真っ赤にさせたシャルルは〝絶対言っといてよ!″と言い放った後、逃げるように自分の教室に駆けて行った。
その一連の流れを見ていたクリストフ先生がヴィクトリアに〝十八の時に求められる求婚者は条件とかないのか?″と本人的にはさり気無く聞いた。
ヴィクトリアは首を傾げ、よくわかりませんがと前置きした後に言った。
「私より頭が良く、私よりヴィクトリアを大事にして、私より強く、、みたいな感じだった気がします」
それを聞いた周りの人々は〝普通の父親なら唯の凄まじい親馬鹿発言だが、あのリヒター公爵に勝つ事が求婚者の条件って事はヴィクトリア様と結婚するのは限りなく不可能なのでは″と恐れ慄いた。




