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帰ってきたヴィクトリア

新学期が始まる為、久しぶりに学園に行く途中のヴィクトリアの心の中は晴れ渡っていた。


今日は雲一つない晴天で、明るい日差しが朝早くから部屋に差し込んだ為、朝はスッキリと起床でき、なんとか今日は一人で制服を着る事ができた。

ここの所、目を覚ますと既に部屋の中に侍女がスタンバイしている事も多かった為、何故か自分で身だしなみを整える事がどんどん難しくなってきているとヴィクトリアは首を傾げた。


清々しい気持ちで食卓に着くと、工夫を凝らされたクロワッサンが出てきた。


毎回美味しくなっていると思ってはいたが、今日は一段とシェフの腕が光っている。

バターがたっぷり入っているものの重く無く、さっくりとしている生地でとても美味しかった。


そして父と兄は仕事の都合で珍しく早めに出ていて二人に会う事が一度もなかった。思春期な女子なもので、あの二人とは三日に一度会うくらいが丁度良いとこっそり思っている。


加えて少し寂しい気分でもあるが、ローラが隣国に引き取られた為、身近で起こる国際問題の危機は取り敢えず去ったと言っても過言ではない。



新学期にワクワクしながら登校すると、いつも通り早めの時間なのに、騒ついている雰囲気を感じた。


新学期早々なんだろうと思いながらそのまま進むと、校舎の前に人集りが出来ていた。

危険は無さそうなので、スルーして教室に進もうとしたが、人集りの中の人から声を掛けられた。


「ヴィクトリアさん!待ってください!」


あまりさん付けで呼ばれる事が無いので少し驚きながらヴィクトリアが立ち止まると、キラキラしい銀色の青年が周りにゾロゾロと人を連れながら歩み寄って来た。


「お待ちしておりました。

今年から一年間この王立学園に留学する事になりました。改めて、リーンテ・カーティオと申します。

是非リーンと呼んでください!

美しいヴィクトリアさんと同じクラスと聞いたので、今からとても楽しみです。

末永くよろしくお願いします!」


嘘でしょ。ヴィクトリアはあまりの悪夢に目の前が暗くなったような気がしたが、取り急ぎ返事だけした。


「よろしくお願いします。リーンテ王子。

それではご機嫌よう」


そしてペコリとお辞儀をして歩き出そうとするヴィクトリアの隣をゾロゾロと周りに人を連れながら慌てたように着いてくる。


「ヴィクトリアさんはいつも朝早く学校にいらっしゃるとお聞きしました。

今度から私もこの時間に来ようかなと思っています。皆と早く仲良くなりたいので」


その言葉を聞いてピタッと足を止めたヴィクトリアに釣られて周りの人々も立ち止まった。

そしてリーンテや周りの生徒達を、その澄んだ青い瞳でヴィクトリアはじっと見つめた。


「無理しなくても良いのですよ。

この学園はその為にあると学園長先生もよく仰っています。

ここは自分が自分として成長するための最後のモラトリアムだと私も思っています」


それだけ言って振り返らず教室に進んでいくヴィクトリアの後ろ姿をリーンテを初めとした皆は、見惚れる様にぼーっと見つめていた。



教室に足早に駆け入ったと自分では思っているが、実際は周りからいつも通り優雅に歩いていたように見えているヴィクトリアは、自分の席に慌てて座って息をついた。

あの集団が毎朝教室に来るなんて事になったらストレスで死んでしまう。

ヴィクトリアは祈るような気持ちで明日から朝に彼らと会わない事を祈った。


暫くしてから続々と代わり映えしないクラスメイト達が登校してきた。

予鈴間近になって、リーンテは意外にも一人で教室に入ってきたようだった。

隣国の第二王子が居ると教室に大きな騒めきが起こる。

目を合わせないようにしようとヴィクトリアが教科書に目を向けていると、席に近づいてきている雰囲気がした。


嫌な予感がしながらも顔を上げるタイミングが分からないので、俯いたまま頭に入ってこない文字を目で追ってると、耳打ちで落ち着いた声が掛けられた。


「ヴィクトリアさん、先程は失礼な事をして申し訳ございませんでした。

全てヴィクトリアさんはご存知の様ですが、私は生まれてから常に難しい立場におり、その事から知らず知らずのうちに自分を偽っていました。

ご忠告の通り此方ではもっとありのまま生きる事にします」


そう囁いた後にっこりと笑って顔を引いていったので、ヴィクトリアがホッとしたのも束の間、リーンテから大きな声で衝撃的な発言が飛び出した。


「今度からは正々堂々と本気で口説いて、来年ヴィクトリアさんを自国に花嫁として頂いて帰りますね!」


ヴィクトリアは石のように固まったが、周りでは驚く程の盛り上がりが起こった。


「きゃー!!リーンテ王子潔くて格好良い!」


「ヴィクトリア様はステイリル王国の宝だ!連れていかないでくれ〜!」


「この国の王太子妃か隣国の王子妃か。

ウェディングドレスどっちの正装も捨て難く選べない。

この想像の中の目が潰れんばかりに輝いている美しいヴィクトリア様も日記に書いとこう、、」


思い思いの絶叫の中パンパンと手を叩き、こめかみをピクピクさせながらアレックス王太子殿下がやって来た。


「リーンテ王子、この度はこの王立学園に来ていただき光栄の限りです。

学園生活を快適に過ごせるよう、レックスと協力して環境を整えて参りますので、リーンテ王子もご協力頂ければ幸いです」


圧迫感を醸し出す王太子スマイルで挨拶をするアレックスに、リーンテも艶やかな笑顔で応えた。


「ありがとう。

ローラ公爵令嬢はヴィクトリアさんにサポートして貰ったと聞いたから、私もアレクじゃなくてヴィクトリアさんが良かったなぁ」


そうリーンテが重ねて言うので、ヴィクトリアは〝絶対嫌だ。というか同じ国際問題危険物ならコイツじゃなくてローラの方が良い!ローラ、この危険物と入れ替わってくれ!″と切に願った。


その様な混沌の中、大きな音を立てて教室の扉が開いた。


あれ?クリストフ先生かな?と思って皆が扉の方を見ると、懐かしい栗色の髪と輝く笑顔が見えた。


「戻ってきちゃいました!

あちらの国でまた問題が起こってしまって、逆に新学期までに此方の膿は粗方除去できたそうなので、卒業まではこの国へ留学という形で、グラード公爵を継ぐための勉強や社交をする事になりました」


え!国際問題危険物が二人に増えた!ローラの方が良いとは思ったけど、リーンテ王子返却できていない!これじゃ私の心臓がもたない〜!


ヴィクトリアはもう直ぐ悪夢が覚めて、爽やかな新しい朝が始まるはずだと目を瞑り現実逃避をした。

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