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手の中の宝物?

学園でお昼休みに一人で歩いていると、廊下に何か赤い物が落ちているのを見つけた。

反国家組織はよく赤色を使用するので、三月に入ったということもあり神経質になっていたヴィクトリアはドキッとしてそれに駆け寄った。


良く見ると布の固まりであり、恐る恐る広げてみるとレースの赤いパンツのようだった。


「えっ!!」


するとその声を聞きつけたように、ヴィクトリアの後ろから直ぐに人が声を掛けてきたので、ドキッとしてとっさにそれを握りしめた。

この制服にはポケットなどの便利な物は無い。


ドキドキしながら振り返ると、見知らぬ女子生徒が居たのでニコッと笑って誤魔化した。


「あの、何か床に落ちてましたか?

突然声を掛けて驚かせてしまって申し訳ございません」


「いいのよ。

心配してくださってありがとうございました。

何もありませんでしたわ。

それでは、失礼いたします」


いつも通り返事をし余裕な顔を作りながら、お礼をしてそのまま立ち去った。



どうにかしてこの手の中の爆弾を処理しなければならない。

片手では到底隠しきれないので、両手を使い身体の前でそれを握り締めながらとにかく前に向かって歩く。


一応落とし物なので、教務室に届けるべきだろうか。だがこれを堂々と届けて良いのだろうか。持ち主は恥ずかしくて名乗り出せない気もする。私も恥ずかしい。

しかしこれが大事な物だったらと思うと捨てる事は出来ない。


どうしようどうしようとそれしか考えられずにとにかく歩き続ける。


するとドンっと誰かにぶつかってしまい、手の中のブツが落ちそうになった。

冷や汗が一瞬で噴き出る。ありえないくらいの速度で一度離しかけた手の中の赤い物を必死で握りしめる。


恐らく怪我しないようにとヴィクトリアを抱き止めてくれていた人を、気持ちに余裕が出てきてからやっと仰ぎ見るとルーカスだった。

流石の反射神経と運動神経で手が使えない自分を庇ってくれたようだ。


「あ、ありがとうございま「ヴィー!!」


顔を険しくしてアレックスが近寄って来る。そしてグイッとヴィクトリアの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

ヴィクトリアはあっと声を出しそうになりながらも何とか両手を固く握りしめたまま、アレックスの方に倒れ込んだ。


ルーカスがアレックスのその態度を見て鼻に皺を寄せながら苦言を述べた。


「乱暴ですね。

ヴィクトリア様の腕に跡がついたらどうするんですか」


「彼女は嫁入り前なのでな。

不適切な距離感だったのでつい急ぎ過ぎてしまった。

ヴィー、すまなかった」


目を白黒させながらもヴィクトリアはとりあえずアレックスに返事をした。


「いいのよ」


ルーカスはちっとした顔をし、アレックスはふふんと笑った。


「ルーカス様、ありがとうございました。

前を向いておらず、申し訳ございませんでした。」


その声に次はルーカスが照れ、アレックスは悔しそうな顔をした。


「それでは二人とも、失礼します」


そんな男達の攻防に目もくれず、ヴィクトリアはニコリと笑ってせかせかと前に向かって歩みを早めた。


彼女のアッサリと遠ざかって行く後ろ姿を男二人が呆然と見ていた。



ヴィクトリアは焦ってきた。このまま教室に戻る訳にはいかない。決断の時は迫っていた。

ヴィクトリアの鬼気迫る表情にすれ違う生徒達は不安そうな顔をしている。

それに気遣う余裕もなく前に進み続けていると、何故か水拭きしたように曲がり角の先の廊下がしめっていた。


あっと思う暇もなく仰向けにすっ転ぶと、赤い布がふわっと飛んで行った。


「あっっっ!!!」


ヴィクトリアの脆弱な声帯で限界まで叫ぶと、その布をそっと捕まえた人物がいた。


「こ、、これは!!」


キャサリンが驚愕したような顔をして手の中の物をマジマジと見つめる姿を、ヴィクトリアは諦めたような死んだ目をした後、そっと仰向けのまま目を瞑った。

一瞬だがヴィクトリアにとっては永遠に思える時間が経った後、キャサリンが興奮したように言った。



「私の物です!探していたんです!ありがとうございました!ヴィクトリア様」


ヴィクトリアはその声を聞き、閉じていた目をカッと開き信じられないような物を見るような目でキャサリンを見つめた。

そして何もなかったかのようにスクッと立ち上がると、キャサリンにいつものようににっこりと笑って返した。


「いいのよ」


そして何か続けようとするキャサリンに対し、ヴィクトリアは顔を横に振り何も話さないように慈愛に溢れた目で見つめた後、いつの間にか着いていた教室にスタスタと入って行った。


キャサリンはその後ろ姿を潤んだ瞳で見つめながら激しく感動していた。

グッドナー伯爵家では武術において頂上は存在しないという先祖代々続く家訓が、頂上を平らに削った山の形の家紋に表れている。

その家紋を象った、代々作り方が引き継がれているレースのハンカチを無くしてしまい、あれを悪用されたらどうしようと焦っていたところを何も聞かずヴィクトリア様が颯爽と助けてくださるなんて。


カバンにしっかり入れていたはずの家紋の形のハンカチが急に無くなったのは何故だろうと、今日のヴィクトリア様の素晴らしさを日記を書きながらも何とか冷静に推測し始めた。

自分の前でヴィクトリア様が廊下の床にわざわざ横たわってくださったという事は、普通掃除しない昼休みに、ここの廊下を水拭きしていたあの女が怪しいと示唆してくれたのだろう。掃除しているフリをして昼休憩で人の少なくなった教室に侵入し、このハンカチを使用して王室派のグッドナー伯爵家を嵌めようとしたのかもしれない。

そして恐らくヴィクトリア様はその見知らぬ女子生徒の格好をした不審者からどうにかしてハンカチを取り戻してくれたのだろう。

キャサリンはヴィクトリア様に後日お礼をしようと思いながら、早速あの女の素性を調べねばと去って行った。

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