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花より団子?

三月に入る瞬間ははち切れそうな緊張感が漂っていたが、肩透かしの様に何もない日々が続いていた。


あっという間に王家の夜会になり、ヴィクトリアは真っ白な布地に金の精緻な刺繍がふんだんにあしらわれているドレスを身につけていた。

恐ろしい程の大きさのイエローダイヤモンドがメインのネックレスも付けており、ヴィクトリアの圧倒的な美貌をより高貴に引き立てる様だった。


王家の馬車で迎えに来たアレックスが降りてきたが、王家の正装を着ていると凄くキラキラしていて、眩しいとヴィクトリアは目を細めた。


「ヴィー、お迎えにあがりました。

いつも綺麗だが、今日は一段と凄く綺麗だな。

お手をどうぞ、お姫様」


「ふふふ。

アレクの方が、今日は特にキラキラしていて格好良いです。

エスコート、どうぞよろしくお願いいたします」


ニコッと笑って手を乗せるヴィクトリアは女神の様だとアレックスは感嘆した。


「ウィリアムはもうローラを王宮に送って行ってくれているようだね。直前まで相当抵抗していたが、何とかなってよかったよ。

予想に反してキールスはサルコーニ公爵令嬢を大人しくエスコートしているようだ。王家の控室にもう着いているので、レスターが見張ってくれている。

油断はできないが、それでも今日がヴィーにとって良い思い出になって欲しいと思っている。

一緒に今日を乗り越えて、同時に一緒に夜会を楽しもう」


アレックスの大人びている真剣だが余裕のある顔に、ヴィクトリアは尖っていた神経が少し落ち着いた様な気がした。

彼女にしては珍しいくらい自然な柔らかい笑みを浮かべ、コクリと頷いた。



控室に入ると、早速声を掛けられた。


「おやおや、お早いお着きで何よりです」


基本的に夜会では身分の低いものから集まるのが鉄則だ。王太子であるアレックスは決まり通りの時間に到着していたので全く問題ないのだが、王弟である自分が先に待っている事が気に入らないらしい。

サルコーニ公爵令嬢が辞めるようにとそっとキールスの腕に触れたが、煩わしげに振り払っていた。



アレックスは会釈だけしてヴィクトリアを奥のソファに誘導した。

レスターがさっとお茶を用意してくれる。

普段は幾つかある控室でわざわざキールスの居る部屋は選ばないが、彼を監視する必要がありわざわざこの控室に入ったもののやはり不快な男だと思った。


「ご機嫌よう」


ヴィクトリアが声を掛けるとその高貴な美しさに気圧されたようだった。

ヴィクトリアはそのまま優雅にソファにそっと腰を下ろした。

暫く固まっていたキールスが気を取り直してまた嫌味を重ねようとした時、会場への入場が促された。



会場に国王夫妻と共に入ると、王家の煌びやかさに感嘆の声が各所から漏れた。

夜会開始の挨拶を国王陛下に続き、アレックスが皆に向かって話している姿をキールスは睨みつけているように見えた。

やはり夜会で何か起こるかもしれないとヴィクトリアは心構えを新たにした。



夜会が始まると、難攻不落のヴィクトリア様がとうとうアレックス王太子殿下をパートナーにしたと人々はざわめいていた。

ウィリアムがローラを連れ早速こちらに歩み寄ってきた。

アレックスへの牽制九割、キールスへの牽制一割くらいだろうとレスターは一人蚊帳の外で予測した。


「この度はご招待いただきありがとうございます。

不肖の妹のエスコートを今回はお任せする事になり恐縮です。

父も恐れ多くも幼馴染のアレックス王太子殿下であれば安心だと言っておりました。

今回はヴィクトリア基金で支援していた孤児院でこちらのローラ伯爵令嬢が暮らしていたという繋がりで私がエスコートさせていただく事になりました。

キールス様には、もしお誘いのお邪魔をしてしまっていたら申し訳ないと思いましたが、このようなお美しい婚約者がいらっしゃるのですから唯の杞憂でしたね」


と、立て板に水のごとく話した。


キールスは顔を赤黒くしながらもにこやかに勿論ですと告げた。


アレックスはヴィクトリアから今日の為に送られた、彼女の瞳の色のサファイアがあしらわれた自分のカフスボタンを見せびらかすようにしながら、光栄ですと輝く笑顔で応えた。


ローラは少しホッとした顔をしながらも不安そうにしていて、ヴィクトリアは心配し彼女に声を掛けた。


「今日は一緒に楽しみましょう。

実は王家の夜会で出るケーキは絶品なんです」


その声掛けにローラは少し顔色を良くして〝はいっ″と笑顔になった。

皆がヴィクトリアが夜会で緊張しているローラに気を遣って言った思っているが、ヴィクトリアは本気だった。


王家の夜会では何種類ケーキを食べれるか楽しみにしている。

今日はショートケーキとフルーツタルトとチョコケーキと二種類のチーズケーキとモンブランとバナナケーキと洋梨のタルトとババロアは少なくとも食べるつもりだ。


妹が普段から夜会でバクバクとケーキを食べている事を知っているウィリアムは、勝ち誇ったように二人分のクロワッサンも取ってくるよと、アレックスと妹を二人きりにさせないように爽やかに笑った。


アレックスはすっかり集団行動が既定路線になってしまい悲しんだが、絶対一回はヴィクトリアに踊ってもらおうとウィリアムの目を掻い潜る事を決意した。



キールスは結局ローラにあの手この手で声を掛けようとはしていたが、鉄壁の男性陣と、キャサリンも合流しての女三人の甘い物への食欲に流石に割って入れず、すごすごと退散した。


ヴィクトリアはこの時のためにコルセットを緩めておいたのよとガツガツと食べていたが、流石に満腹になってきた食休みの時にアレックスに誘われ、少し踊る事にした。

二人でクルクルと回っていると、運動するとお腹が減ってより食べれるとヴィクトリアはひらめき瞳を輝かせた。

曲が終わった後〝もう一曲誰かと踊ろうかな″とアレックスに言うと、流れるようにもう一曲リードをされてしまった。これは不味いのではと思ったが、頬を上気させて余りにも幸せそうなアレックスを見て、まぁ二曲まではセーフかなとヴィクトリアは黄金の輝きを見つめながら目を細めた。


ウィリアムが曲の途中で乱入しそうだったので、ローラとキャサリンがヒールの踵で足をさりげなく踏んづけた。

ウィリアムは色んな意味で涙目になっていた。


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