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目先に囚われず先を見据える?

とうとう武術大会当日になった。毎年二日間に分かれて二種目ずつ開催され、競技の順番は一年ごとに変わる。

明日の剣部門に出場する幼馴染のアレックス・レスターの二人と、騎馬部門に出る兄のウィリアムの各々から今日のためにとお守りを貰った後だったので、三人には毎年渡している物より少し丁寧に作成したお守りを渡した。



武術の先生に、全員一週間以内で教育を断念させた私の数々の歴史を知っている兄のウィリアムが〝妹には無理だ。リヒター家の恥になる″と止めてくれないかと仄かに期待したが、実際は感動したように〝弓を放つヴィクトリアは天使のようだろうな″と見当違いな事を言われただけであった。

全くもって肝心なところで役に立たないと観客席に居る兄を横目で睨むヴィクトリアであった。


出番が近づくにつれてドキドキしてきた。どうしよう。弓なんて幼少期に基本の構えしか教わっていない。構えだけは完璧だったと褒められたが、何故か先生のカツラを撃ち抜いてしまったため弓の訓練は最速の一日で終わった。


幸いな事に今年は弓部門が一番最初に行われる。

ささっと無難に終わらせて観客の記憶に残らないように消えようと心に決めた。


「実力を出し切るんだ!ヴィー!」


「頑張れー!リアー!我が天使よー!」


聞こえない。張り切ったような王太子殿下と兄の声なんて聞こえない。


「ヴィクトリア様ー!大好きですー!

その騎士服とってもお似合いです!」


「ヴィクトリア様!素敵です!

試合頑張ってください!」


何故かローラとかキャサリンの声も聞こえる気がする、、、。

目立たないようにしているのでお願いだから静かにしてほしい。



勿論目立たないなんて事は不可能である。

ヴィクトリアが初めて武術大会に出るという話題で、参加表明から開催までのこの一ヶ月の間中、学内は大変沸いていた。



幾人かが当然のように的中させた後、出番となったヴィクトリアがそっと前に出て弓を構えた。その圧倒的な美しい姿勢に観客が息を呑んだ。


ヴィクトリアがその整った長い指を離すと矢が只管に奇跡が起こったかのように的の中心に向かって勢い良く一直線に飛んでいく。

その時、矢が突如起こった台風のような風により横から吹き飛ばされた。

皆が残念そうに声をあげそうになったが、その矢はまるで勢いを失わず的の左に大きくズレて彼方まで飛んで行く。


“ズドン”と大きな音が聞こえた。皆がその先に目を凝らすと、練習用に遥か遠くにあった的の中心に的中している。

審査員は声を張り上げた。


「的中ー!!的中です!!!

ヴィクトリア様が遥か先の的のど真ん中に的中させました!

流石ヴィクトリア様です。急な突風も計算済みの見事な弓術でした!!」


会場はスタンディングオベーションになり、拍手が鳴り響いた。その拍手を打ち切るように学園長がパンパンと手を打った。


「これは評価が難しい事になりました。確かに的中は的中ですが従来の慣習では点数が付けられません。ですがあの突風がなければ軌道から従来の的の真ん中付近には少なくとも的中していただろう事は予測できます。その上あの小さな的に的中させたのです。この弓術には信じられないくらいの技量が使われています。


またヴィクトリアさんの見事な弓術のおかげで日頃から周辺環境の不測の事態も考慮した上で、その先を見据えしっかり対策せねばならないと気づく事ができました。王立学園の生徒なら、この奇跡からの学びを三月への心構えに生かせると思います。卓越した弓術に加えその功績も含め、最優秀と評価しても良いと思うのですが、ヴィクトリア様はどう思われますか?」


ヴィクトリアは本人に聞くってどういう状況なの?と思ったが、あのマグレ弓術で評価などとんでもないと顔を青褪めさせて首を横に振った。


「とんでもないことでございます。

これは試合なので、本来のルールが優先されるべきだと考えます。

私は的に当てる事ができませんでした。

それが全てだと心得ております」


そう発言したヴィクトリアに学園長が感動したように目を潤ませ、大声で観客に語りかけた。


「流石ヴィクトリアさんです。

皆に高みを目指すようにとその身で体現し、それを誇る事なく身を引く事が出来るなんて。

皆さんも、ヴィクトリアさんの様になれるよう心身共に鍛錬を重ねましょう」


学園長のその言葉に会場では拍手が雷の様に鳴り響いた。

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