冬祭りの開催
リヒター公爵領での冬の祭りの日となった。
雪は降るもののそこまで積もる日が多くないリヒター領は、冬祭りである〝リートラット″が盛大に開催される。隣国での戦争で無くなった人々が最も多かったのもこの冬の時期であることから、皆が追悼の為に日持ちする携帯食として活用されていた特産のチーズを庭先に備え祈りを捧げる慣習がここ十年ほどからできた。
ウィリアムはこの行事を十五歳から取り仕切っており、領地に帰ってからは領地の采配に加え、この日の準備に追われていた。
ウィリアムは騎士服に身を包み、ヴィクトリアは女性用の騎士服をドレスにリメイクしたものを着ていて、アレックスは王太子の正装をしてくれている。
領民への軽い挨拶を終え、珍しくローラもウィリアムも揃った状態で一室でお茶を飲みながら一息ついていると、ローラがふと疑問に思って質問した。
「リートラットは何という意味なのですか?」
「隣国の戦争で沢山の死者が出るまでは〝リート″だけだったんだ。この国の古い言葉で幸せという意味だ。
ラットを付けることはこの日に戦死した者たちの死を悼む意味ができた時にヴィクトリアが提案したのだ。
〝ラット″は古代語で感謝という意味だ。
現在の幸せは沢山の人々の献身の賜物であり、彼らにこの幸せを感謝するという意味になる」
ヴィクトリアは兄のその説明を聞いてお茶を吹き出しそうになった。そんなこと言った覚えは全くない。
ラットは自分がこっそり飼っていた屋敷のネズミにつけていた名前だ。
もしかして小さい頃祭りの日に、いつもより煩い屋敷に驚いて隠れてしまっていたネズミをチーズを持ってラット〜ラット〜と探していたことが関係していたりしないだろうか。
いやいや、そんなはずはない。兄の覚え間違いだろう。
尊敬したように見つめてくるローラ、アレク、レスターの目を決して見ないようにしながら、庭先だけではなく、裏庭の今は亡きラットの墓にもチーズを備えようと心に決めた。




