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お姫様になりたい

道路の視察を終え、馬車に乗り込むところで不穏な大声が聞こえた。

西地区には店が多くあるのだが、そこで窃盗があり現在も犯人が逃走中のようだ。


「ヒュー、行って」


ヴィクトリアの声を発した瞬間からヒューバートは馬に乗り走り出した。

凄まじい速さで駆けていく後ろ姿を一同はポカンと見つめていたが、ヴィクトリアは冷静だった。


「特にこの町での犯罪は、領地を管理する一族として放っては置けません。

兄がいない今、私が向かう責任があります。

ヒューバートが相手を確保してくれているでしょう。

皆様はお先に館へ」


ウィリアムとローラは実は不在である。ウィリアムは領主館での執務に追われており、ローラはヴィクトリアの担当の侍女達に弟子入りすると言って、何故か侍女見習いをしている。


アレックスは、ヴィクトリアのヒューバートへの信頼にかすかに嫉妬しながらも自分も現場へ向かうと言い、一同は馬車で先を急いだ。



ヒューバートは犯人を確保していた。

少し薄汚れた男で、訛りの酷い言葉を話していた。出来心だったと主張しているようだった。

このような貧しい国民がいる事にアレックスは心を痛めていたが、ヴィクトリアはその男の発する声を聞いた途端顔色を変えた。


「あなた、西の隣国から来たわね。我が国に流れてくるくらい彼の国の現状は悪いのかしら?」


訛りで直ぐに出身国がわかるのかとアレックスもレスターも驚いていた。


『そうなんだ。あの国では働き口が無い。そのまま死ぬよりはとここまで山を超えてきた。ここの国は栄えているし、リヒター領の名は、隣国に居た時も豊かなところだとよく耳にしていたからな。

だがここで道路整備の職にはありつけたが、整備が終わったらまた根無草になっちまった。

ここの国の言葉が満足で無いため長期の雇用に中々ありつけないんだ』


男が切々と訴えた。

ヴィクトリアは全ての言葉を真剣に聞いた後、男に伝えた。


『あなたの主張はわかったわ。

でもあなたのやったことは犯罪よ。食べるものがない時はリヒター領では役所に行かなければいけないの。

勝手に物を取ることは絶対にやってはいけないわ。

あなたには一回キッチリと罪を償ってもらうけど、その後放り出したりしないでしっかり再就職までサポートするように役所に指示をしておくわ』


男はヴィクトリアを女神のように崇めた。その美しい顔に見惚れながら、心を入れ替えて雇用の機会を得るために努力し、職を得たら真面目に働くと膝をつき手を組んで誓った。



ヴィクトリアはヒューバートを労いながら、その旨を伝えるために、男を連行する市中の警備隊に付き合うように伝えた。

ヴィクトリアと離れる事を渋りながらも、ヒューバートは警備隊に付き添って行った。



「では、館に帰りましょう」


ヴィクトリアの声かけで彼女に見惚れていた一同はハッと馬車に乗り込もうとしたが、ヴィクトリアがその運動音痴を発揮して馬車に乗り込む時にずっこけた。


「ヴィー!?」「ヴィクトリア様!?」


アレックスもレスターも口々に心配し、声をかけた。

ヴィクトリアは非常に恥ずかしそうに顔を赤くしながら、大丈夫だと手を振った。




リヒター公爵邸に着いた。

ヒューバートは先回りして着いていた。ヴィクトリアが馬車から降りるのに手を貸したが、歩き方を見て顔を顰めた。

そしてヴィクトリアをお姫様抱っこして歩き出した。


「ヒュー!辞めて!」


「目を離した隙に足を捻るお姫さんが悪い」


聞かずにヴィクトリアを抱えて歩くヒューバートを見て、ヴィクトリアとあんなに接近できるなんてと、アレックスは思わず心の声が漏れた。


「羨ましい、、、」



その声を聞き、ヴィクトリアはえっ?という顔をしてアレックスを見つめた。

アレックスは王子だ。王の男の子どもは姫ではなく王子になる。

ヒューが私の事を、以前も先程も姫と呼んだ時も、今のようにお姫様抱っこしている時も、アレックスはじっとこちらを見つめていた。そして今回しっかりと羨ましいと言っているのが聞こえてしまった、、、。

〝もしかして、そういう事かしら。多分そうよね。どうしよう、気づいてはいけない事に気づいてしまったわ″とヴィクトリアは動揺した。


とりあえず今日の晩餐の準備のために、ドレスを着たりお化粧したりをローラと二人でするつもりであったが、アレックスを〝アレクもティアラが似合うと思う″とさりげなく誘うべきだろうとヴィクトリアは心に決めた。


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