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愛が溢れている

馬車は順調に進み、予定通りビクター子爵領に入った。子爵夫妻が歓待してくれ、様々な飢饉への対策や、治水工事を紹介してくれた。

子爵夫妻は立派で弁えていたが、夫妻の十四歳の娘はこの機会に王太子かリヒター公爵嫡男とお近づきになりたいとまとわりついていた。


昼餐は子爵家で取る予定だったが、問題が起きそうなので遠慮させてもらおうと一同は話し合った。

そして子爵にも内密にその旨を伝え出立しようとした時に、どこからともなく嗅ぎつけて来ていた子爵の娘が驚く事を言い出した。


「そのボケッとしている二人の女より私の方がお役に立てると思いますわ。

女は愛嬌が重要ですもの。

旅路には私も皆様を支える一員としてご一緒させてくださいませ」


子爵夫妻は度肝を抜かれたようで、娘の口を塞いでとにかく遠くに連れて行こうとしている。確かに子爵の娘はそれなりに明るい金髪をしていて、顔の造作も綺麗である。だがそれは彼女単体を見た場合で、ヴィクトリアの非の付け所のない圧倒的な美しさや、クリンとした大きな琥珀色の目をしているローラの可愛らしさとは比べるべくもなかった。身分の差もある状況でのその自分への自信のあり溢れた発言は正気とは思えなかった。

場は騒然としていた。アレックスがまとめようと口を開こうとした時に、ヴィクトリアが声を発した。


「いいのよ。

でも貴女は未婚女性だし、後々問題になると困るわね。

もうキールス様とはお別れしたのかしら?」



ビクター子爵令嬢は真っ青な顔になった。先程の得意げな見下したような態度から一転している。


「何のことかしら、私忙しいから失礼するわ」


逃げようとした娘にヴィクトリアが無自覚に追い討ちをかける。


「あら、あんなに中庭で愛を誓い合っていたのに、、、

他にはドルトン伯爵子息とはどうなのかしら?

ノアーク男爵子息とは?

なかなか思い出しきれないわ。

貴女の愛が広大すぎて、見習いたいと思っていたの」


ヴィクトリアは本気の顔をしている。面倒くさがりでやる気のない自分に、そのマメさと愛の拡散方法を教えてほしい。


「話を後で聞かせてもらうからな」


どすの利いた声で娘に子爵が通達した。



「御令嬢は学園で色んな人生経験を積んでいらっしゃるみたいですね。キールスもその他も婚約者がいたはずなので、こちらでも詳しく調べさせていただきます。

災厄の対策は順調でしたので、娘さんも目をかけてあげてくださいね」


王太子殿下は輝く笑顔で伝えた。


夫妻は平身低頭しながら馬車を見送った。

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