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リヒター公爵領へ

冬休みになった。

二日間の小旅行だ。


私、ウィリアム(兄)、ローラ(危険)、アレク(王太子)、レスター(変態)


我に返ってみると、このメンバーで果たして自領まで何事もなく行けるのだろうかと恐れていた。


だが、心配しても仕方がないのでヴィクトリアは王家の馬車を待つ事にした。ローラとウィリアムは馬車の席で争っている。女同士がとか血は水より濃いとかとか聞こえる。

馬車はいつもリヒター公爵領の騎士達が行きと帰りの警護をしているが、今回は王太子も同行するという事で、王国の騎士達も同行してくれる。


幾ばくもしないうちに物々しい警備を連れた馬車が到着した。

和やかにアレックス王太子殿下が降りて来た。相変わらず美形で、キラキラしている。


「やぁ、快晴で何よりだね。今回はお世話になるよ」


「アレックス様に来ていただけるとは、領地の者も喜ぶでしょう。こちらこそよろしくお願いいたします」


言葉だけは丁寧だが、妹に近寄る虫は潰すと思っている物騒な瞳をしている。


「よろしくお願いいたします」


ヴィクトリアは王家の馬車で行けるのはラッキーだなと喜んでいた。


ヴィクトリアの姿を見た王国の騎士達は話には聞いていたが、想像を上回る絶世の美女に度肝を抜かれている。旅の軽装でも全く気品が失われておらず、今回の旅は圧倒的な高嶺の花を実際に目に入れることができる貴重な機会だったので、浮ついた空気が流れていた。


その空気に気づいたアレックスとウィリアムは、今日はよろしく頼むよとドスの利いた声で王国の騎士達に声をかけた。

公爵領の騎士達は何故か鼻高々でふんっと胸を張っている。

王国騎士達は背を伸ばして敬礼した。


ヴィクトリアは二人が騎士達に激励をしているのを見て、自分も何か言わなきゃ!と焦った。


「今回はよろしくお願いいたします。勇猛と名高い王国騎士達と、我が騎士達の働きに期待しております」


と言った。騎士達のボルテージが一気に上がって『はっ』と大声が上がった。


ヴィクトリアは勢いにビビりながらも、皆やる気で凄いわと他人事だった。


ローラも可愛らしさで人目を集めており、貴族位を持つ者達は彼女だったら有り得なくもないかなとロマンスを想像した。だが彼女が馬車に乗る段階でもヴィクトリアの隣に座ると争っている姿を見て、『彼女もヴィクトリア第一主義の宗教の人間か』と悲しそうな顔をした。貴族女性にかなり多い宗教である。


馬車に乗り込むと、空気になっていたレスターが声を出した。ちなみに席は男子チームと女子チームになっている。未婚女性を男性の隣に座らせる訳にはいきませんとヴィクトリアが言ったためである。


「今日はうちの館で一泊ですね。料理は皆様方があまり食べたことのない自領特産の料理にしてもらうように言っておきました」


そう、初日はブルドン侯爵領に滞在する事にした。少し遠回りするが、災厄の対策を通過出来そうな重要地点は見回っていく予定の為、侯爵領に泊まる事にした。

レスターの眼鏡が賢そうに光っている。


「それは楽しみだな。クロワッサンもたい焼きと一緒になって進化しているのだろう?」


アレックスはヴィクトリアがクロワッサン好きだと知っていて下調べをしておいていた。


「そうなんですよ。今日晩のデザートはもちろんそちらをお出しする予定です」


レスターの眼鏡は益々光り輝いている。


レスターの声にヴィクトリアは頬を赤くして喜んでいる。そして、嫁ぐなら素敵なクロワッサンがあるところがいいなぁと妄想した。


「ヴィクトリア・ブルドンも悪くないかも」


その嬉しそうな声を聞いたアレックスとウィリアムは素早くレスターの足を踏んだ。心なしか眼鏡が悲しそうに曇りを帯びている。


「変わり種は偶に旅行に行く時に食べるのがぴったりだよね!王都では洗練されたクロワッサンが沢山の店で発売し続けてるし」


「うちの領でヴィクトリア基金を使ってクロワッサン開発するのはどうだ?好きにクロワッサン領にしてくれて良いんだぞ!」


とアレックス、ウィリアムに立て続けに捲し立てられ、確かにそうかもとコクリと頷いた。

ローラはどこに行っても着いて行こうと心を新たにしていた。


レスターは涙目になりながら、うちの兄には婚約者がいるので、主に侯爵領に滞在する者に嫁ぐのはヴィクトリア様では身分的に難しいですねと眼鏡を割られる羽目にならないように回避した。レスターは王太子側近として今後も王都に主に滞在する予定だ。クロワッサンたい焼きは自分と共にはない。

眼鏡はホッとしたようにフレームの緊張を抜いたようだった。

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