始まりは突然に
ヴィクトリアは急いでいた。
元来の運動音痴から優雅に歩いているようにしか思えないが、彼女は焦燥に駆られながら学園長室へと足を動かした。
なんでこのようなことになったのか。彼女は過去へ想いを馳せた。
あれは三ヶ月前のことだった。
学園長に呼び出され、彼女は毎回厄介ごとを頼んでくる狸親父に殺意を覚えながら、無駄にフカフカなソファーに座った。
「お断りします。」
彼女にしては大きな声で相手を威圧した。
だが、他にとっては普通の声のため、威圧には失敗している。
友達もおらず普段はあまり喋らないため、声がかすれているようだった。
重ねて彼女は言い募った。
「私は栄えあるリヒター家の娘です。日々研鑽を積み、家をより繁栄させる義務があります。」
これだけで彼女の一週間分の勇気と声帯を駆使している。
「ヴィクトリアさん。貴女がそこまで言うなんて。」
学園長は目を潤ませていった。
「私は何を言われても意見を変えるつもりはありません。それでは失礼します。」
決まった、、とヴィクトリアは思った。我ながら完璧である。何か言われても面倒なので颯爽と学園長室を後にした。
そこまで回想したところで自分を責めた。なんで!なんであそこで学園長の話を聞かなかったのかと。