何をしに来たのか
王宮の中の宰相室がある行政府に馬車がついた。
「送ってくださってありがとうございました」
ウィリアムが声を掛け、馬車を先に降りた。ヴィクトリアをエスコートしようとすると、外にいた人物に横から突き飛ばされた。
「私がいるから君はいいよ」
傲慢さが見え隠れする声だ。
王太子より二つだけ歳上の王弟だ。
といっても、晩年王妃に先立たれた前陛下が政務から退いた後に妻に迎え入れた身分の低い女性の子どもで、前陛下の年齢もあって王家の血筋を引いているのか疑問だと噂されていた。
外見も綺麗な顔はしている。だが、レンガのような赤い癖毛に茶色の瞳で、父母どちらにも顔立ちも色味も似ていないため、余計に疑われていた。
「お手をどうぞ。お姫様。貴女の白魚のような手に、私のような下賤な者が触れてしまい申し訳ないのですが」
彼は見下したような卑しい目をしてヴィクトリアを見た。昔から彼は男尊女卑の意識が非常に高く、自分の輝かしい功績が評価されないのはヴィクトリアのせいだと逆恨みをしていた。
彼は二番煎じでヴィクトリア基金の真似をし、孤児院に多額のお金を投資したりしていたが、あまり成果は芳しくなかった。
それもそのはずで、彼は貧民への施しをしてやったのだから自分に忠誠を誓えと、過去には奴隷のように好き勝手に人を使っていたのだ。
それは現国王からの厳重注意で止めたが、現在も孤児院の職員によるお金の着服や、衛生環境の悪化での疫病蔓延など、次々と問題が絶えなかった。
そろそろ国王から孤児院関連の事業をヴィクトリア基金へ移管するように命令が下ると周囲には思われている。
ヴィクトリアは寝起きでボーッとしていたが、にこりと笑ってとりあえず手を取った。
「いいのよ」
ぶっと多方向から吹き出した音がした。
王弟キールスは引き攣ったような笑みを浮かべながら、ヴィクトリアを馬車から降ろした。
「今回も三月の対策のために王宮に来てくださったとか。流石はヴィクトリア様です。私も少しは三月に向けて何かできればと様々な方策をさせて頂いていますが、多数の輝かしい功績のある貴女には、凡庸な私はお目汚しになりますね」
重ねてキールスはヴィクトリアに捲し立てた。威圧的な態度と、一見卑下したような口ぶりは彼の十八番である。
「いいのよ」
にっこり笑って再びヴィクトリアは返した。彼女は興味がないのでキールスの話を聞き流していたのだ。
キールスは二度もあっさりと謙遜に肯定の返事をされ、二の句が告げなくなった。
そこで堪えきれないようににやけながらアレックスが降りて来た。
「叔父上、お久しぶりです。学園でもあまりお会いしませんね。
ヴィーは私がエスコートさせていただくと早文で宰相に送りましたので、もう結構ですよ。
そういえば、叔父上に学園長が課題の提出状況と、出席日数についてお話があるそうですよ。婚約者のサルコーニ公爵令嬢も御身を心配していらっしゃいました。今月は体調不良が続いているようで心配だと」
「そ、そうか。ご苦労だった。
いや、休んでいたらさっき体調が良くなってきてな。
明日は行こうと思っているんだ。では失礼するよ」
キールスはそれを聞き、焦ったように去って行った。




