それゆけホラー同好会
後書きを追加しました
何故かスティーブという渾名の高2男子と、お隣さんで2つ歳下の幼馴染ジュンジは、ワクワクしながら電車に乗っていた。
今日は、SNSで知り合ったホラー愛好家の集まりに行くのだ。
SNSで知り合った皆で出かけると言っても、いわゆるオフ会ではない。なぜなら、ジュンジのリアル彼女とその友だち、さらにその従兄弟と、点と点が繋がって輪になった集まりだからだ。
従兄弟くんはタカハシという優男だが、なんとスティーブのバイトの先輩だったのである。しかも、バイトとしては先輩だが、歳は同じ。タメである。
「エイ•ショーの新作にキングプテラが出るらしい」
スティーブがSNSのグループで公式ページのリンクを載せれば、
「予約した」
とジュンジが答える。
「だよね、サイン会つき」
ジュンジの彼女ミサが入ってくると、
「講演会だろ?」
と、ミサの友だちの従兄弟タカハシが続き、
「ええっ、あたったの?」
と、ミサの友人で何故かドリューと呼ばれている高一女子が発言する。
結局、サイン会の前にある講演会は、タカハシしか当選していなかった。現在世界中で大人気の若手ホラー作家の初来日の大イベントで、全国を回るのだ。スティーブたちの住む小さな町から急行で2時間ほどの町にも来てくれる。
ただ、その地域では大きな町とはいえ大都会ではない。会場のキャパもたかが知れている。ファン人口が少なそうだと踏んだマニアからの応募が殺到してしまい、地元のファンが落選多数だと噂されていた。
もちろん、噂だ。地元といってもかなり広域なので、主催者以外にはどの程度地元民が来るのか把握出来ない。
「講演会の間、俺たち何してようか」
「1時間じゃなあ」
スティーブとジュンジが困っていると、
「本の受け取りして、並んでたらすぐでしょ」
とミサが言い、ドリューは
「普通にタカハシが先に行けばいいんじゃね」
と言う。
それで決まりだった。
「どうもー」
「おはよー」
隣の駅でミサとドリューが乗ってきた。タカハシは予定通り先に出掛けている。
「空いてるねえ」
「サイン会行くならこの電車が1番いいのになあ」
ミサとジュンジがくっついて座りながら不思議そうに車内を見回す。
「もしかして、講演会落ちたのあたしらだけ?」
「まじかーあるかもー」
ドリューの疑問は、4人には本当らしく思えた。日曜日午前9時ごろの上り電車は、普段もっと混んでいる。遊びにゆく家族連れやカップル、大きな病院へゆく高齢者や持病持ち。行商人や旅行者もいる。
それが、今日は不思議なことにがらんとして4人の他には乗客がいないのだ。
一駅毎にホームを見ても、人っ子1人いないのだ。
「んー、異界行きだったりして?」
「ひー、やめてぇ」
ミサとジュンジがイチャイチャしだしたので、スティーブとドリューは新作の話題を始めた。
新作に出ると言うキングプテラは、エイ•ショーのデビュー作で重要な役割を果たしたキャラクターである。主人公が少年時代に大切にしていた動くプラモデルだ。それが夢の世界で命を得て襲ってくる。夢はやがて現実に滲み出す。
「キングプテラがちゃんと悪霊なのがいい」
「フォーデイル•シスターズの白いブレザーも変わってないらしいね」
シスターズは、本当に姉妹だ。怪異蔓延る田舎町フォーデイルを人知れず守る一族なのである。女性のみに力が発現し、それを支える有能な男性も活躍する。
「続編ではない」
「新たなる夜明けだ!!」
スティーブとドリューは拳をぶつけて声を合わせる。窓の外を見れば、不気味な赤緑の雲が広がっている。
「ねえ、大丈夫かなあ」
「なんだあの色」
2人があげる不安そうな声に、ジュンジとミサも空を見る。
「やべえな」
「悪夢の空みたい」
雲はどんどん広がってゆく。やがて窓がぐにゃりと曲がって。
「着いたよ!」
「ひゅえっ?」
誰かの声で目を覚ます。
「ほら降りるよー」
「スティーブ寝すぎー」
「涎ぇー」
3人が笑うので、決まり悪そうににやにやしながら、スティーブはハンカチを取り出すのだった。
お読みいただきありがとうございました
ジュンジくんは語る人ではなく描く人かも?
ホラー映画のリトル•クイーンが古巣にカムバックして歓喜している、全ての人と、なんのことやらわからない全ての人にも捧げます。