ダークナイト
「最近この界隈で純血派の暴動が多発しているでしょ?」
「血が混ざらず澄んでいる程、選民とほざいている連中か?」
「そう、純血貴族絶対主義派。神の使徒と本気で思っているカルト集団よ」
ここは流石に小声。
正統な血筋程、神の系譜に近いと本気で思っている輩だ。確かにレアクラス、希にスーパーレアクラスの魔物を使役しているらしいから唱えていることは正しいのかも知れない。
物差しとして世間一般はコモンまたはノーマルクラスだ。
「しかし、それがどうしたのか? 別に貴族間同士の争いだ。我々うら若き学生には縁遠い世界だと思うが?」
「最近、謎のモンスターテイマーにコテンパンにのされているそうだよ」
「ほう、今時そんな殊勝な奴がいるのか。よっぽど頭のネジが吹っ飛んでいるとみた」
純血派は成り上がりものや政府穏健派の要人を襲撃する。古来よりそういった確執はあったが今に比べたら大したことはない。発端は現王が婿養子で血筋が十二神の系譜ではないことだ。現王否定派の元老院は秘密裏に純血派を組織して各地の不満を煽っている。
勿論だが、ここクラムベディア王国第二の都市ムーンレイクも例外ではない。
「ちまたではダークナイトと呼ばれているそうだよ。何か感想はない?」
「ダークナイト……そのあだ名、我輩が欲しいな」
「そうじゃなくて、モンスターテイマーの中にはスーパーレアクラスも混ざっているのに殲滅するなんてダークナイトはそれ以上のクラスということ」
ダークナイト。あからさまな中二ネームで嫌いじゃないが、ヴァーミリオン嬢は分かってて煽っているきらいがある。その証拠に撤退準備へ入った我輩の袖を然り気無く掴んで離さないからだ。
困ったものだな。こんな公の場で長々と学園一の人気者と友達ぽいトークをかましていたら、そろそろ奴等が黙ってない。
「――いい加減にしろよ! この亜種が! ビャクヤ様になんて口の聞き方するんだ! アーガス伯爵現当主と公爵家でも二十五男の末っ子では身分に天と地の差があるんだぞ!」
「しかもテイマーになれないお前は人間以下だ!」
ほら、こうなる。
甘やかされて育てられたイキっている貴族を見ると、あの運が良いだけの世の中舐めきった後輩を思い出す。いや、それよりも酷い。実際こいつら貴族はパンがないならお菓子を食べればいいじゃんと本気で思いながら生涯を終えるのだ。
「みなさんいいの。ゴルディオン公爵家には未だにお世話になっているし、幾ら彼がゴミカスでも私は我慢できるよ。それにこうして仲のいい振りを演じておけば、義理も果たす事ができる」
アーガス伯爵 ビャクヤ・ヴァーミリオン嬢は暴徒足るクラスメイト達を優雅に嗜めた。しかし、騙されるなかれ。生来の悪戯っ子特有、邪悪な微笑みと気付かず毒蛾の鱗粉みたいに散布されている。