主人公はミイラ系包帯ぐるぐる巻き中二病男
「実に生きにくい世界だ。我輩はただモンスターを眺めていたいだけなのだが。パートナーがいないだけで迫害を受けるのは間違っている」
「それはここで言わない方がいいよ。王家批判で密告されかれないからね」
と、前兆なしに足を人差し指でちょんと押された。座るに座れないまま空気椅子チャレンジ中の我輩が飛び上がるのには充分過ぎる痺れである。
「それよりその話し方なんとかならないの? 今時我輩なんて古くさい使わないよ?」
「そうか? 呼称するのなら公爵家らしくなるべく偉そうな方がいいと、仲の良い我が兄の一人が言っていたのだ」
実際、我輩は前世では俺だった。封印していた中二病が再発症したのか、やけにこの世界で馴染んでいる事に気付いた。
それにあまり前世のように腰を低くさせると、公爵家にあやかろうとする下心丸見えのろくでもない輩が集まってくる。
「それでなくても全身包帯ぐるぐる巻きで、クラスの女子達が敬遠しているのにホラー要素というか個性を増やしてもねぇ」
「くきききき、それは仕方ない。我輩の体内に封印されている魔導エネルギーを制御する為だ。いや、右手に封印している魔王が暴れると言った方が格好いいか?」
などと、わざとらしく右手を痙攣させもう片方の手で押さえつけるが、「マジキモイよ」笑顔で拒絶されたのでやむを得ず中止する。
魔術で織り上げている特殊包帯が我輩を覆っていた。まあ、色々と訳があるのだが、話の序盤でネタばらしをしてしまったら、ドラマのオープニング前に私が犯人ですと告白しているみたいなものだろう。なので割愛。
包帯の上に制服とか着ているのでかなり体温が上がると思うだろうが、魔導具なので快適だったりする。幸い視界の周りと髪は解放されているのでアンデット扱いは免れているが、イケメンルックスを披露出来ないのが残念だ。
「男子って本当にこのネタ好きよね」
「くききき、我輩が世界だということだ」
「ついでに笑いかたもキモイ」
「個性と言ってくれたまえ」
この時期、自分が特別な存在と思うのはどの世界も共通なのだ。特に十代後半に許される少年少女達の特権。だから、後先考えないで無茶出来るし、夢に邁進することが出来る。
「ネタといえば、この前からオルナダーク君が好きそうな噂が流れていたっけ」
「うん?」
どうやらこれが本題のようだ。クリクリとした青い瞳が心なしか輝きを増した気がする。
会話のコンボを華麗に決めるヴァーミリオン嬢は、我輩をこの場からフェイドアウトさせる気は毛頭ないらしい。でも、ギャラリーがいるところでこの少女と会話するのは余り芳しくはないのだ。だと言って面と向かいうるさいと拒絶することも出来ない。
仕方がないので立ち、気付かれないよう徐々に後退する牛歩戦術に切り替えることにした。