王国女騎士対純血派上級戦士(マルギッテ一人称)
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私は赤銅色の逆光を浴びながら駆け抜けていた。オレンジに染まる街並みがそのまま掻き消されるかのように、強い色へと上書きされる。
夕刻を告げる教会の鐘、正常ならば心地よい音色なのだが、刻々と迫る制限時間に今、死の扱い強迫観念に囚われていた。
暗闇に覆われたら捜索するのが難航する。それに街の殺人とは大概夜に執り行われるのだ。要するに連絡が来たのは今日の朝だから、この夕暮れが終わる瞬間にタイムリミットは行ってくる。
常に冷静沈着を心がけている私だが、今日だけは最悪の事態を想定して不安が募るばかり。無駄に足が力み疲労が加算された。
色は違うが同じ装束の騎士団員が後ろから続く。たまたま駐留していた近衛騎士団が、救援要請に応じてくれたのだ。これもほぼ私事であったが私の部下が数日前から行方知れずになって、最後の手紙に純血派が関わってることを示し場所をある程度特定出来たお陰。
でも、とても誇りに思った事と同時に、大切な懐刀、エヴァ・プラネットを最も危険な事態に身を投じさせた事に対して、悔やんでも悔やみきれない自責の念に捕われていた。
先行しているアレックスの影が伸びて別モンスターにもみえるが、お陰様で見失わずに済む。私の心とリンクしているから、一刻たりとも早く助け出したいという気持ちに反応している。
だからだ、何かを嗅ぎ付けた途端スパートしたパートナーの対応に、何の疑いもなくエヴァ・プラネットを発見したと確信した。
そして辿り着いた裏路地にある袋小路、つまり行き止まり、そこには仮面をした白装束の男へ噛みつく光景が広がっていた。
「純血派、貴様らここで何をやっている!?」
「あの紋章は国王直轄の近衛騎士団だと?」
そう、白いローブに仮面による独特の衣装、こいつらは紛れもなく純潔派。我がノース伯爵家に多大なる犠牲とメンツを傷つけられた憎き敵だ。
抑圧されていた怒りが水車小屋に大量の水が引かれるが如く、爆発的な勢いで心の歯車が回りだした。
されど私は近衛騎士団一個中隊を率いた身。沸き立つ感情を内包しながら純血派を逃走しないように裏通りを封鎖する。これも間違えなく生け捕りにする為だ。
「マズいですね。これだけの王国の騎士達です。この数は多勢に無勢。ここで事を構えるわけには行きません。残念ですが一旦退くしかないようです」
「そうはいくか!」
だが、純血派リーダーは足に噛み付いているアレックスを無理やり振りほどく。
続く遠距離からの魔法攻撃も、「そんなものは効きませんよ」自らのモンスターを犠牲にして防いだ。
「想定内だ!」
それは次の行動の布石。
魔法を弾幕として目眩まし。
何故なら私は空にいたからだ。
矢継ぎ早に剣を抜いた私は頭上から鋭い一撃を入れる。
それを魔法のバリアで防がれると、
足払い。
掌底。
横一文字の連続攻撃。
しかしこれも難なくバックラーで回避された。
密かに仕掛けた能力を下げる精神魔法系、毒や幻影等の補助魔法系もその場でレジスト。
相当な手練に私は唾を飲み込む。
この手際、間違えなく上級騎士クラスだ。私の自信が驕りだと悟ってしまう。その証拠に、こいつは私の得意スタイルを見極めている。
そう、隠しているが私の近接戦闘は徒手によるカウンタータイプだ。なのに素手の間合いには決して入ってこない。
しかしそういった時の対策もある。
ずれた眼鏡をかけ直す。同時に深紅のマントを相手に投げつけ、
上段突き三連撃。
スライディングからの蛙跳びアッパー。
相手マントを掴んで体勢を崩してからの背負い投げ。
しかしながら、仕留めたと確信したが着ている服装は若干違った。
「何処を狙っているのです?」
「いつの間に!?」
気付いたら敵が入れ替わり、リーダーと思われし者は後方へ下がっていた。
間があるとしたらマントをあの手練に投げつけた時か。でも、刹那的時間でそれが可能なのか?
大道芸を間近で体験している気分だ。
赤と黒のコントラスト。シャンデリアでは得難い自然の妙技に、沈み往く太陽を直視して思わず私は目を細める。そのまま視線を落とすと、包帯を全身に巻いてある男の姿。聞きたい事は山ほどあるが、命のやり取りをしている最中、一瞥するだけで済ました。




