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交渉決裂


「この世界を破滅から救うことが可能なのは純潔派しかいないのです。我らがこの混沌の世界を管理するのです。争いが起こらない秩序が守られた国によって」

「それは思い上がりが過ぎるのではないだろうか。過去も未来も人間の本質もモンスター同様野生なのだ。この世界を自由にするなんて成功しない」

「神となった十二英雄の末裔たる我ら選ばれし血族は、ただ無駄に生きているそこら辺の人間ではないのです。使命を帯びた純然たる天の使徒。何故わかってくれないのです」


 本気で言っているのか? 思い込みが激しい奴はうざいの何者でもないぞ。

 だからカルト集団は怖い。集団催眠で狂った事を平気で行えるからだ。


「聞いていて頭がおかしくなりそうだ。なら一般人や奴隷はどうなるんだ? 対等な立場で迎え入れてくれるのか?」 

「あり得ないですね。ゴミはゴミでしかない。貴方も所詮は公爵家の残りカスか。我らの崇高な理念に賛同できないのはお貴方も偽物だからだ、ナタク・オルナダーク殿」

「我輩の事を分かっていたのか?」

「出所は秘密だが情報はあった。それにあなたの格好はどうしても目立ちますからね」

「はて、どこにでもいる普通の包帯男ですが」

「面白い冗談を言う。貴方ほど目立つ方はいないと思いますが」


 流石は大きい組織。既に情報は漏れているようだ。

 形勢はこちら側が圧倒的に不利。持っているカードは限られているのだ。相手はフルハウスかフォーカード、対して我輩はワンペア出せるかどうか。ならば有事に備えてブタのように鳴く練習もしておこう。


「さあ、女をこちら側に引き渡してもらいましょうか? 学生のごっこ遊びに付き合う程、我々は暇を弄んではいない」


 仮面の者は改めて要求する。毅然とした態度、そこに交渉の余地はない。


「知らないといっている。それに仮に知っていても拒否だ。同じ学園の生徒が助けを求めてきた。ならば男として答えねばならん。それが我輩の矜持だ」

「強がりは止すのですね。自分の命より大切なものがこの世にあるものか。絶対的な力の前に人間とは臆病になるもの」

「事を荒立てたくないのだ。後で兄達に証拠隠滅を願い出て余計な借りは作りたくない。それにもし我輩が死んだら幾ら末っ子でも家が動くだろう。表立って加担してなかっただけで純血派が恐ろしいわけじゃない。この意味わかるかな?」


 さてこの場をどうやって納めるべきか。思案のしどこだ。


「私に揺さぶりをかけるつもりですか? 無駄なことですよ。純潔派を全て崇高な目的のために動いている。我等仮にここで果てても何の悔いもない」

「ここで交渉だ。見逃してくれればゴルディオン公爵家の名において、卿達の無法ぶりに目をつぶろうじゃないか」

「我らが下賤な存在に畏怖するとでも? …………然りとて正直公爵家と正面からやり合う事はしたくないですね」


 確かにこいつらの態度には、そこらのゴロツキのような邪念は一切ない。  

 新撰組や赤穂浪士のように死を厭わない手練れだ。もしここで我輩が実力行使に出ても、先の夜襲のような失態は演じないだろう。


「ならばこの場は退いた方がいいだろうと我輩は提案する」

「致し方ない。純血の貴族に殺生することは我ら純血派の理念に反している。ここは一旦退こう」


 拍子抜けする程上手くいった。

 

 だから油断する。

 手打ちにする為相手が差し出した手を握ろうとするも、「卿よ良い判断であ――!?」腕は反応する前に剣で切り落とされた。決壊したダムのように鮮血が吹き出る。


 痛かったがとても痛かったが、敵に対して弱みを見せたら負けだ。ならば強がりでも平気なフリをしなければならない。


「あなたは甘いですねとてもあまちゃんです。呪印を結ぶ手を切断。これでアンデッド作成の可能性は断ちました。これで憂慮すべき事はなにもない」

「これは手詰まりだ。我輩としたことが油断していたのである」


 空を仰ぐと一面焼けるようなオレンジ色に支配されてる。その反面、日が遮断されている路地裏は影を濃くしていた。その最も影が濃い部分にて血飛沫が舞踊る。

 

「貴方を殺した後に女を探しましょう。何、寂しく思いはさせませんよ。直ぐに女も後を追わせますからね」

「それはご丁寧にどうも、しかしながらこちらの方が運があるようだ。この勝負我輩の勝利だ」


 高らかに勝ちを宣言する。そこに一片たりとも疑いはない。近づいてくる微かに香る柑橘系の香水の匂い。

 ならば激痛に耐えながら、今から来る雨季または春の到来を待つ。

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