転生者 斉藤義房
マルギッテの言う事も良い得て妙だが、ならばせめて巻添え食ってまだ鎮火せず燻っている、このか弱きクラスメートたる我輩に水をかける事ぐらいしてもバチは当たらないと思うが如何?
このままでは芳ばしいスモークなナタクさんになってしまう。
しかし水は意外な所からかかり、「ナタク・オルナダーク、モンスターテイマー適性検査不合格だ」教諭による鎮火と共に、冷水より静かな低音で我輩の心を冷やした。
「フリード教諭、再試は?」
「君も懲りないわね。来月だが、適性のない人にやっても時間の無駄よ。いい加減自主退学する事をお勧めするわ」
溜め息混じりにもう何度目か忘れた最後通告をしてくる。
「それは御免被ります。自分は諦めが悪いので」
「仕事だからやるけど、私もはっきり言ってゴルディオン公爵家じゃなければ貴方には関わりたくないわ」
ベロニカ・フリード教諭。御歳二十九歳独身は美人だが婚期を逃している仏頂面で我輩を見下す。
「そうですか、我輩的にもやる気のないミスには早々に寿退社をお勧めしますよ。お相手がいれば――」
「――っ!!」
お局様予備軍の手もとい足によって蹴り上げられた頭が、除夜の鐘の如く脳内に響き渡る。
教諭よ、幾ら我輩を蹴ってもワールドカップ出場は皆無とだけ言っておこう。
なのでいかり肩で踵を返す彼女へ言いたい、「ナイスシュート」と。
「ナタク君、元気だしてください。たまたま調子が悪かっただけですよ」
声の主を爽やかな笑顔を浮かべて手を差し出す。まるで死力を尽くしたサッカーの試合でお互い健闘を讃えるシーンのようだ。
無論、我輩は惨めなので自分で立ち上がる。空気の読めない者に一瞥するのは忘れない。
「我輩は健康体。余計な気遣いは無用に願おうか。クラスメイトえー君」
「僕はえーじゃないですよ。いい加減幼年科時代からの幼馴染みなんだから名前覚えてください!」
ふむ、どうやらきゃつは長年の学友を主張しているようだ。どうでも良いことだから気にしない。
モンスターは言うことを聞かなかったから、マルギッテとパートナーモンスターによりチリと化した。学園からのレンタルなので我輩とは相性が悪いのが原因。
「でも、もっと時間を掛ければ仲良くられた筈」
「いや、無理でしょう。ナタク君見るとモンスターはみんな暴走するから」
「………………」
さりげなく空を仰ぐと憧れのドラゴンが旋回を御天道様に披露していた。
「ふん、確かにモンスターテイマーの名家ゴルディオン公爵家の一員でありながら、我輩はその才能は皆無。こんなにもモンスターを愛しているのに何故だ」
「さあ、二十五男の末っ子だから血の力を受け継げなかったとかですか? 努力は一杯しているのに。それでなくても見た目、アンデットのミイラだからクラスメイト達から浮いているのにね」
「…………」
それに対して我輩は沈黙を決め込む。無論、沈黙とは黙す事を指す。大体は都合の悪い時に使う行動の一つだ。
そう、我輩はこの学園でモンスターテイマーを目指しているのにモンスターに嫌われた存在なのだ。
こんなに転生後も生き物が大好きなのに、あまりにも理不尽極まりない。
前世名、斉藤義房。しがない中年サラリーマンが何故か公爵家の二十五男に転生。魔物使い至上主義の世界で待遇が斉藤時代よりもっと悪かった。
何故なら我輩はモンスターテイマーの名家の生まれながら、モンスターを使役出来ない出来損ないなのだ。




