生きた禁断の人類最終兵器
「許さなくて結構。この辺境伯公子様は上級貴族で王族とも関係を持っている。辺境伯である父上様に訴えれば女といえども処刑は簡単なんだよ」「大人しく媚びていれば輝かしい学園生活を満喫していたろうに」「公子といえど伯爵より辺境伯の方が立場は上、何を憚ることがあろうか。女のくせに身の程を弁えてもらおうか貧乳」
取り巻き達は位が低い分際で我が物顔に擁護する。辛辣な言葉が飛び交った。
しかしながら聞き捨てなら無いワードを耳にする。卿達よそれは禁句だ。
案の定途端に空気が変わる。笑顔を浮かべているが、「貧乳?」禍禍しい程の瘴気がドクトルを纏った。
これはまずい。ムーンレイクが一瞬で死霊の街になる。魂とゾンビ蠢く姿が目に浮かぶようだ。
少女を中心に紫の魔法陣が舗装してない地べたを彩る。
「殺す殺す殺す殺す」
「ドクトルストップだ!」
直ぐ様緊急用干し肉を無理矢理口を抉じ開け、暖炉へ薪をくべる要領で放り込む。
肉塊を噛み砕いている間に死霊術を外部から強制キャンセルした。
「止めるなナタクよ!」
「止めるである。この街を廃墟にする気か?」
「おーおー、メスネコはよく鳴くなぁ。この俺に逆らったから学園では生きていけないんだぜ」
魔法陣を展開した事を全く理解してない無知はドクトルを煽る。その度に激しい歯軋りが我輩の耳を陵辱した。
「貴様らこそ覚悟はできているんじゃろうな。ナタクだけでは無くわーをも愚弄してただでは家に帰さんわい」
「なんだその喋り方、ババアか?」
自己のアイデンティティーに深く溝を掘られたのだ。これはドクトルも退くに退けないか。
「やはりこの場でゾンビに変えて食い合いを……」
「待てビャクヤ・ヴァーミリオン、これは我輩の問題だ。口出ししないでもらおうか。後々兄達が出張ってきたら面倒である」
「なーよ、奴らを殺せ。懺悔しながら涙と糞尿を垂れ流しながら無惨にな。わーが許すのじゃ」
「素が出ているぞな。落ち着け」
心を隠すことがまだ下手のようだ。それでは駆け引きばかりしている貴族の社交界デビューは程遠い。
それにしても口が上手いドクトルをここまで焚き付ける辺り、向こうが一枚上手。言葉巧みに操りクラスを数で牛耳っているだけはある。
「仕方ない、このままでは王国一美しい街が歴史から消滅してしまう。辺境伯公子様、如何様な事がお望みか?」
「からぐた、てめえは目障りなんだよ。学園から出ていけ。既に親に見捨てられた野良犬だ、別に何処で野垂れ死のうと公爵家は手出しして来ないだろう?」
「それは聞けないな。我輩はモンスターテイマーにならなければならないのだよ。夢を諦めてなるものか」
「ならここで死ね」
一斉にモンスターが前衛へ。
スライムと一角ウサギに蟻。
ステータスで確認するとコモンと数匹とレア一匹だった。能力的にも大した事は無い。よって同期しているテイマー達も特筆する程大した事が無い訳だ。
これで貴族を名乗っているのだから、王国の未来はとても明るい。破滅のラッパ音がヨハネを伴って聴こえて来そうだ。




