師弟関係
「それとくれぐれもオルナダークには頼らないように」
「ゴルディオン公爵家ですか?」
「それもそうですが、ナタク・オルナダークです。あの者とは関わってはなりません。ノース伯爵の品位が疑われます」
「ベロニカさんは昔からナタク嫌ってますもんね」
「生き物に愛されないあの者は邪神の眷属かもしれませんからね。学業の成績は良いかもしれませんがモンスターテイマーでなければ意味がない」
私とナタクが幼馴染みなのはベロニカさんは知っている。というか師弟関係なのだ。こんなに罵詈雑言を並べるのもこの人なりの愛なのかは、本人しか分からない。
ただ、私が知る限り褒め称えた事は一度たりともないので、二人が仲良くしている姿を想像するのは至難の業だ。
「確かにあいつは馬にも嫌われているからこのように馬に乗れないし、ゴルディオン公爵本家に行くと必ず番犬達に追いかけられているそうですよ」
「まあ、だからと言って私の大事な生徒であり弟子には変わりないから、あの者を嫌っているというのは訂正して欲しいです」
「そうですね、ベロニカさんはナタクと私の剣の師ですもんね」
「懐かしい。お父上から片手間でいいから鍛えてやってくれと申し付けられたのが、つい昨日の出来事のようです」
幼少の砌公爵家で行き場のなかったナタクが良く私の屋敷に逃げてきた。それ以来の腐れ縁。
元々父上の警護をしていたベロニカさんに、手が空いているとき剣の基礎をみっちりと叩き込まれたのだ。
だからナタクも未だに頭が上がらない。
「そういえばあの時分、ナタクがベロニカさんに頻繁に求婚しましたよね?」
「そんな事ありましたか?」
覚えていないのか聞き返してくる。私にとって大切な思い出の一つなのでちょっと切ない。
確かに、その性格では嫁の貰い手がないだろうから正妻にしてやろうとか、じゃじゃ馬慣らしは得意だからベロニカ師匠も生涯使って慣らしてやろうとか、とても傲慢で分かりづらかったが…………。
「ええ、子供の頃によくある強い者への憧れでしょうけど」
「しかしながら、冗談でも公爵家の者としての自覚が足りない。あれは誰にでも求婚してそうですので。まあ、今更ながら公爵家に玉の輿を逃して痛恨の極み」
ベロニカさんは冗談ぽく笑みを浮かべる。
そんな気は更々無いことは分かっているので、「残念ですね。ナタクがノイローゼになって苦しんでいる姿を特等席で観賞したかったのに」と嘯いた。
「とにかく、くれぐれもナタク・オルナダークには頼らないようにして下さい。バックにいるゴルディオン公爵家に知られる事は後々厄介ですから」
「わかりました。私も細心の注意を払います。ベロニカさんも引き続き学園側の情報入手をお願いします。どんな些細なことでも構いません。どうかよろしくお願いします」
「分かっています。純血派は私も昔、手を焼いてました。襲撃事件も主君だったノース伯爵が襲われた以上他人事ではありません。微力ながら当たってみます」
私の馬は暇を弄んでいたのか、蹴った小石は飛び、水面は揺れ、波紋は広がる。
気を取られていて一瞬視線移動したあと元に戻すと、見知らぬ者が道の真ん中へ立っていた。
「お嬢様方そうは行かないぜ。悪いがここで死んでもらう」
「単独で襲ってくるとは良い度胸ね」
「待ってベロニカさん、こいつ単独じゃないです。仲間がいますそれも一杯」
いつのまにか八方を囲まれていた。相当訓練を受けた者達なのか、気配が全く感じなかった。予めアレックスが気づいて牽制しなかったらもしかしたらやられていたかもしれない。




