優等生マルギッテと劣等生ナタク
我輩は死の危機に瀕しているが慌ててはなかった。
何故ならこの場合の対処方法は学園教本に書いて、「――アレックス、前方のモンスターをゴミもといナタク・オルナダークもろともファイアー!」不意に前方から放射されたモンスターのファイアブレスで我輩を補食中のウツボカツラはチリと化した。取り出した書き込み満載の我が教科書と共に……。
「げほげほ、ライトファント卿、かたじけない」
「このクソムシが情けないぞ! それでも公爵家の子息か! 貴様なぞ団子虫で十分だ!」
燃えているモンスターから乱暴に救出された我輩は、焚き火から転がされた焼き芋の如くこんがりホクホクだった。
凛とした声だが、開口一番心身共ズタボロな少年に向けてのお言葉にしては辛辣だ。どこかの新兵教育訓練よろしく、心象はよろしくない罵詈雑言が我輩を扱き下ろす。これで伯爵令嬢って言うのだから美少女なら何でも許されるのかと、深窓派の我輩としては軍曹タイプのお嬢は止めて欲しい。せめて優しさがあればいいのだがどう見積もっても家畜以下の扱いだ。
「ふむ、だんごむしでなりより。プランクトンよりはましだ」
「対戦相手に助けられて王国戦士としてプライドはないのか!」
「我輩はやるだけやった。悔いはない」
「何処がだ。最初から使役する事を諦めていたではないか!」
ナメクジでもガン見しているようにえげつない事を言う少女は、整った顔をしかめる。
その性格を表しているかのような紅蓮の赤髪に三編みメガネのサンセット。文学少女というよりクラス委員長スタイルの方が良い得て妙。
鷹の如くきつい眼光が、我輩への好感度を測るパロメーターとしては十分過ぎた。
「見解の相違だな。別に自然の流れに従っただけだ」
「モンスターと心を通わせられると言ったのは嘘だったのか?」
「嘘じゃない。可能だ」
「じゃ、この体たらくは何なんだ!? 対戦相手が私じゃなかったら貴様は死んでいたぞ!」
高慢ちきは立つことも出来ない我輩を見下ろす。あと四、五人横たわっていれば巻頭表紙定番のサークル絵面になるのだが、それだとマルギッテの我が儘ボディーを下から捉えるベストアングルで独り占め出来ないから却下だ。
前の世界なら間違えなくその巨乳でグラビアアイドル、またはその美貌で社交界を牛耳っていたであろう。
「ライトファント卿。その理由をお聞きになりたいと?」
「…………変人、貴様は生きた屍だ。公爵家にいつまでも怯えているつもりだ?」
我が学園の制服は男女共にブレザーで、赤を強調したデザイン。ただ違うのは男子がネクタイとズボンは一色の赤に対して、女子はリボンと赤と白が美しいチェックのスカートになっていた。
即ち何が言いたいというと…………
「ごもっとも。それはそうと、卿よ」
「何だ、馴れ馴れしい。私は騎士だぞ」
「女の子が今から欲求不満の奥様のような黒のパンティーでは駄目だ。ネコパンツではないと――」
我輩に腹パンを一発決め、「死ね!」そう吐き捨てると、辺境伯令嬢、マルギッテ・ライトファンド嬢はマントと三編みを翻しこの場を去る。
その後を彼女のパートナー、ファイアーフォックス(炎狐)のアレックスが続いた。大きな図体の割りに気取った身のこなしは飼い主の躾によるものだろう。