朝に吹く一陣の風(マルギッテ一人称)
馬を歩かせていた。
蹄鉄の音が鈍く鳴り、舗装されてない土の道を一歩一歩踏みしめる。平らじゃないので馬体は揺れるが、それでもこの子なりに気を回しているのかとても安定した。
同じ速度でパートナーであるファイアーフォックスのアレックスは横並びに歩を進める。赤い毛並みが風に煽られて燃えているような美しい色合いを放つ。
狐独特のシャープな体つきに化かされるが、体躯はかなり大型だ。豹ぐらいはある。
こんな大きいなりだが基本的に温厚で無闇に獲物でも襲ったりしない。だが、臆病者というよりも争いを嫌う平和主義者や紳士。常に毅然とした態度で事にあたっている。実に頼もしい相棒だ。
今は日が出たばかりの早朝なので、鳥の囀ずりと朝の冷気が私の体を程よく引き締める。息を吐くとメガネが曇る程度に、気温は幾許か低かった。朝露が草花へ装飾のように纏っているぐらい湿り気もある。
日課というほどではないが、ムーンレイクの郊外にある湖のほとりを散策していた。お父様が非番の時はここで良く釣り糸を垂らしている。水面から時折聴こえてくる魚の跳ねる音。それなのに趣味である釣りには一切掛からないのは、腕前が無いからなんだろう。
護衛役は一人もつけてない。誰でも油断大敵と思うかもしれないが、私にはアレックスがいるから必要ないのだ。軍隊や盗賊団など徒党を組んだ相手でも一網打尽にする自信がある。
何時ものコースを幾分か進むとアレックスが前触れもなくひと鳴きする。
「どうしたアレックス?」
相棒の視線の先を辿ると、前方から馬影を確認する。まだこんな時間帯、警戒するも木漏れ日に照らされる見知った姿に安堵した。
「騎士殿、朝の散歩ですかな?」
「おはようございます。先生もですか?」
双方手綱を引き馬を歩行を止める。私は労いと諌めるように鬣を撫でた。
「そうですね。愛馬の運動がてら朝の美しい空と空気を堪能してました。それと仕事で煮詰まったから気分転換ですね」
「フリード先生もですか」
「今はプライベート、先生はよしましょうマルギッテお嬢様」
「ではお言葉に甘えて、ベロニカさん」
学園の教師であるベロニカ・フリードは返事の代わりに微笑む。教鞭をとっている時と違って随分と穏やかな面持ち。それだけ責任のある仕事なんだと改めて教師が抱える使命に敬意を表した。
実践訓練の教官も兼任しているので、動きやすいボブカットの髪型はベロニカさんによく似合ってる。スタイルも素晴らしく訓練をして引き締めているので無駄な贅肉はない。衣服も派手さはないがシックに纏めている。
しかも同性の私がため息つくぐらい美人だ。実際、学園には女子生徒主導のファンクラブが存在する。
これで昔から浮かれた話を聞かないのは、根っからの仕事人で誇りを持っているからなんだろう。




