リ・スタート(ナタク一人称)
世界は欲しい物を与えてくれない。
これは真理だ。何故なら生物は常に何かを欲する存在だと我輩は認識している。傲慢 強欲 嫉妬 憤怒 色欲 暴食 怠惰など七つの大罪ではないが、何かを求め続けているように神、若しくは星が設計。
だからこそ人類は進歩しているし世界もそれを受け入れているのだ。
ならば我輩ことナタク・オルナダークがこれだけ懇願している致命的欠陥、もしくは欠落にも神の深慮深い遠望があるにちがいないと確証はないが藁にもすがりたい気持ちがある。
……いや、実際はすがるどころか、「体が溶け始めている。死ぬなこれ」蟻地獄のように引っ張りこまれているところを絶賛体験中なのはお約束だろうか。
大型植物系モンスターで食虫植物ウツボカツラを彷彿させるディテール。天麩羅で揚げたら美味いらしいが流石にこのサイズはノーサンキュー。しかし、逆に我輩がお食事にされている珍事は学園でも希だろう。
魔物の体内はどんなにジタバタ足掻いてもローン地獄を体験したリーマン並みに下半身が拘束させて身動きが取れない。
ヌメヌメとした生暖かい液体がまるで半身浴。足湯ならスマホしながら半日は動かない自信がある。しからばと手で掻きむしるように這い上がろうと試みるが、これもローションを纏っているかのように我輩の爪は受け付けない。
その上、生臭さと気持ち悪さで汚物まみれな歓楽街の朝を思い出すのはいただけない気がする。そこら辺で寝ている死屍累々な飲ん兵衛達を尻目に出社するのはあまり気持ちいいものではないのだ。
御天道様もこの哀れな道化を見限ったのか、若しくは見てられないのか枕にもなりそうな雲のカーテンで遮る。うちわで扇いだような風が頬を撫でた。しかし残念ながら、生物の体温と相まって生暖かい。
「我輩は美味しくないぞ」
などと口走るが無駄な抵抗も虚しい。
ならば調教済みの大人しい大型モンスターがエサと勘違いして我輩を丸飲みにしようとしているこの現実にも何か意味があるのかと、記者会見の場を設けるぐらいは担当の神に説明責任があってもいい気がするのだが如何に。
先程からハリウッドスター並みの名演技を披露しているがパニックではベテラン俳優並みに特に光るものがあるだろう。専属声優がついても良いぐらいだ。
即ちヘルプミー。第一、みんな怖くて目を瞑っているから役者の演技なんて分からないだろうが。
しかし我輩にもプライドがあるから素直に助けを求めるつもりはない。ツンデレ気味に言ってもルックスはあまり自信ないし、雄蜂が群がってくる程の甘ったるい可愛い声も期待できない。
百々《とど》のつまり、後はモンスターの栄養になるのを待つだけという分析結果が、我輩の脳内をチンドン屋が紙をばら蒔く程度の早さで巡る。ならばせめてジジババが小躍りするぐらいは三味線とバイオリン掻き鳴らして、和洋折衷な昔懐かしいメロディを奏でて欲しいものだ。