腑甲斐無いクラスメイト達に、マルギッテは王国の将来を憂う。(マルギッテ一人称)
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「うああああ! 参った!」
「………………」
申告と共に拳を相手の顔面前でピタリと寸止め。僅か鼻先三寸。
勝敗が決まると審判を請け負ってくれている担任ベロニカ先生が、「勝者、マルギッテ・ライトファント!」高らかに勝者として軍配を上げた。
身に付けている大切な眼鏡を掛け直しながら、空気を深く体内に取り入り、熱くなっている攻撃性を下げる。
今日の授業は野外グランドで格闘戦だ。
だが、モンスターでなくテイマー同士、一対一の模擬戦闘となる。
幾ら使役しているモンスターが強くとも、実践を積んでおかないと同調状態で役に立たないからだ。
それにしても、この学園の男共は弱い。王国近衛騎士クラスなら私など一捻りだ。悔しいが未だ勝ったことがない。これでは最高峰のドラゴンナイトなど夢のまた夢。
勿論モンスターとのリンクは外してある。学園生は日常からどれだけ半身に頼っているのか丸分かりだ。
その有象無象の一人が立つことも難儀なのか、対戦が終わっても座り込んでいる。本当なら終わったら随時地慣らしするのだが役にもたたない。
「アーサー・アークランド、大丈夫か?」
「うん、大丈夫ですよ。いやー、流石に君は強いねぇ。もう九連勝かぁ。僕じゃ相手にならない」
アークランドは苦笑しながら頭を掻く。陽光の屈折具合からか金色の髪の毛がキラキラ光っていた。太陽が照射される影がアークランドを通して投影される。昼か。………前言撤回だ。日時計代わりにはなる。
「違う。アークランドが修練を怠っているだけだ。モンスターいないと何も出来ないのか?」
「たはははは、否定できない」
あの馬鹿ナタクと同じ初等部からの付き合いだけど、相変わらず貴族としての覇気がない。
優男特有の不健康そうな青白い肌色と相まって、折角の金髪と深みがある青い瞳が貧相に映った。
「それより何処か怪我をしたのか? 肩が痛そうだが」
「ああ、これは昨日痛めてね」
めくった箇所がアザになっていた。どうやら軽度の打撲、すぐにここまで変色はしないから、アークランドの強がりという訳でもなさそうだ。
「モンスターが変わったのと何か関係があるのか?」
見慣れない側にいる一角ウサギはまるでお置物のように微動だにもしてなかった。まだ契約したばかりなのだろう。
「ちょっと、言うこと聞かなくて逃げられたんだ」
「そうか。でも、それはアーサー・アークランドが脆弱からだ。モンスターは幾ら契約していても弱者には辛辣なのは分かっているだろ? だからナタクは未だモンスターレスに甘んじている」
「ははは、ナタク君なりに頑張っていますよ」
アークランドは子爵の庶子だから公爵家には頭が上がらない。同じクラスなのもナタクを通じて公爵家の粗を探せというものだろう。それは交渉好きな貴族間では言を俟たない事だ。




