クラスメイト、ビャクヤ・ヴァーミリオンの正体
「それは無理な相談だ。師匠を呼び捨てには出来ない。それに学園一の美少女クラスメイトの正体がロリババアだと分かっていたのなら尚更だ。この事を知ったら学園の男子半数が、特殊性癖にクラスチェンジは免れないであろうな」
年甲斐もなくちょっとむっとした我輩は、卑怯と知りながらレディに対して年齢の話題を持ち出した。
ランタンで鈍く反射している馴染み深い銀髪は風で静かに踊る。緑がかったクリクリとした瞳には、ミイラと誤認識しそうな我輩の包帯っぷりが映し出されていた。
正式名、ビャクヤ・ヴァーミリオン。名家ヴァーミリオンの名跡を継いだ才女にして現アーガス伯爵。
そして、この世界に激しく絶望していた頃、我輩に力と活かし方を伝授してくれた張本人だ。
「むう、この見目麗しの美少女に向かってロリババアとは何事じゃ」
「千年前の世界を生きていた人間を形容する素晴らしい言葉じゃないかね。それとも年齢詐称の残念女子高生とでも呼んで欲しいのかな? アーガス伯殿、若しくはクラスメイトのヴァーミリオンさん?」
「オルナダーク君酷い! 私の事が嫌いなの?」
「今更ながら標準語に直したところで、正体を知っている我輩が心をときめかせる可能性はない。どうせなら子孫を紹介しろ」
ドクトルはブリッコしながら頬を膨らませる。愛らしいクリクリの瞳が緑掛かった青の色彩を放っていた。
そう、ビャクヤ・ヴァーミリオンは面妖にも我輩のクラスメイト。エルフ並みの変わらない若い姿を利用して年齢詐称している。この通り制服を身に付けても、そこら辺のピチピチJKと引けは取らない。
大人びたというかババア口調が本性で、ブレザーの上から研究者の誇りであり証でもある白衣を纏っていた。
「ちっ、つまらんのう。出会った頃はあんなにウブだったのに」
「ふん! こんなに心がひねくれた原因があるとすれば、間違えなくドクトルのせいだと断言しよう。我輩の大切なアオハル期間と純情の返却を要求する」
「それはしたり。なーがムッツリなのも要因だと思うのじゃがの?」
わーとは私または我、なーとはお前とか汝という意味らしい。
「それでドクトル、昨日のあれは何のつもりだ? 我輩は学園での接触を避けたいと申し出た筈。幾ら大人のフェロモンとダンディズムを醸し出しているとしても、時と場所を選んで欲しいものだ」
「んん? なんのことやら? アーガス伯爵のわーに失礼を働いているのは日常茶飯事なので気にしなくてよいのじゃ」
はぐらかし方は向こう方が一枚上手だ。流石は年の功。
ドクトルがモグモグと動かす口からは、ハッカ飴の香りが漂ってくる。甘味とハーブ系香辛料特有の清涼感があるので、気温が低い早朝だと身が引き締まる気がした。
関係ない話だが、お年寄りはハッカとかニッキとか仁丹を好むのは何故だろうか? 未だに解明されてない永遠の謎だ。




