強い憧れ
「さあ、お前達良い子だ。我輩にテイムさせておくれ。くききき」
我輩は肉の餌をそっと前に置く。
動物の警戒を解く方法はどれだけ警戒心を和らげるかに掛かっている。ただ、餌をやれば良いと言うわけではない。これにはコツがあって、こちらに敵意が無い事を察して貰うのだ。
なので出来うる限りの笑顔を振り撒く事は忘れない。包帯でイケメン(自薦)が殆んど隠れている事はこの際置いておく。
だが、作戦はどうやら功を奏さないようだ。数十体のモンスターに包囲されている現在、餌の動きを捉えている筈の視線は、何故だか我輩の摺り足で移動しても目が追っていたからだ。
これで分かったと思うが、毎日の日課とは当たり前だがモンスターと契約を交わす事。幼少より十年間、三百六十五日休まずにやってきた。この世界へ転生してモンスターどころか金魚一匹も飼えないのは、ペットマスターを動画で自称していた身としては穴に入りたい限りだ。
大きな牙を持つサーベルタイガーと闇の眷属ダークウルフは肉食系に相応しい唸り声で我輩を威嚇。ジライヤが好んで使役していた大ガマ、昆虫のハンター大カマキリは特性のカウンター体制へ入る。
全くもって良い面構えだが、どう脅しを掛けようともモンスターにあるだけの愛を注ぐ我輩にはご褒美でしかない。
ゴリラ型モンスター、クリムゾンエイプは威嚇する度に立派な牙が見え隠れする。和柄が似合いそうな紫の立派な毛並みだが、これから生え変わるのだろうか、毛が従来より少ない気がした。
気になるのは隣の大型の蟹。思わず吾輩は目を疑う。これは水中型モンスターだ。普段は浅瀬にいるはずが、何このような草原にいるのだろうか? まだ乾期が始まっていないので、考えられる理由は冬眠から覚めたばかりなのだろう。それでいつのまにか水が引いて草原に取り残されたというのが正解だろうか。
研究成果の賜物か、それとも生き物へ捧げる愛の賜物か、対象のモンスターの性質が頭の図鑑から自動的にスラスラと出てきた。
生き物達はなんて素晴らしいのだろうか。
それぞれの場所に適応して営みを続けている事からも窺える。それは魔物にも言える事。彼らも精一杯生きているのだ。確かに人間もどこにでも適応できる汎用性の高い頭脳と体を手に入れている。確かにそれは素晴らしい事かもしれない。しかし、いつの日か何でも出来る人間はおごり始めた。同族同士で騙し合いなんて愚の骨頂。
醜いったらありゃしない。
だから本能で生きている彼らに、我輩は強い憧れを抱いているのかも知れない。




