先走るマルギッテ
「それは憂慮するべき事態かもしれんな。このまま行けばプライドが高い純血派の事だ、何か報復処置を行ってくる可能性もある」
「ムーンレイクが危ないですね」
「マルギッテ、お前に頼みがある」
「何でしょうかお父様?」
ノース伯爵に頼まれる。騎士として、尊敬している父として、これほど名誉で喜ばしいことはない。
長年封印していきた期待という気持ちが吹き出てきた。
「ダークナイトをこちら側に引き込むことは出来ないだろうかと考えている」
「え? どこともわからない人間を仲間に引き入れるのはリスクが大きいのではないでしょうか」
よりにもよってダークナイトか。
私は従順だが心の何処かに不満が募る私もいた。
「それは百も承知だ。だがそんなことはどうでもいい、仲間になったという風評が欲しいのだ。さすれば奴等も慎重になり暴動も治るのではないだろうか」
「それはいささか短絡的ではないでしょうか。確かに抑えにはなるでしょうが、かえって怒りを買ってしまうのでは?」
私は否定的だ。
ダークかブラックか訳のわからない氏素性も判明しない者など、興味が無かった、どうでもよかった。それどころか、どうして騎士である自分を頼ってくれなかったのか不満にさえ思う。
確かにまだ学生だ。教わっている立場でもある。でも戦士としての誇りもあるのだ。
お父様の中ではまだまだ子供だということは十分に分かっているつもり。
それでも早く認められたいと思っている。私は由緒あるノース伯爵家の一員なのだから。
「これは当主命令だ。お願いだ言うことを聞いてくれ。わしの可愛い大切な娘よ」
「………お父様、分かりました。このマルギッテ・ライトファント。必ずや主命を果たしてご覧にいれます」
主命を果たすつもりはない。
お父様にした事を私は許すことはできないからだ。それなりの報いを受けてもらわないとノース伯爵いや、我が家の名折れ。
「マルギッテ、くれぐれも私情に走るなよ」
「………………」
お父様は心情の本を読み取っているかのように娘の行動へ釘を刺す。私はそれに対して何も答えなかった。嘘はつきたくはないから。
濃い夜空を見上げると星の光がいつもと同じように光輝いていた。見慣れた光景だが私の感情によるものなのかは不明だがとても軽薄に映る。
眼鏡を取ると視力はないのでまともに映らないが、とても残酷で醜い現実を直視するより、カレイドスコープのように綺羅星が踊ってる分、こちらの方がまだ幻想的。
私は乙女でありながら素足だという事を忘れ、吟遊詩人が吟う英雄譚のプロローグと今の現状を重ねている程、気持ちがとても高揚していた。




