貴族間の対立
「それだけでしょうか? わざわざ危険を犯してまで本家に突撃するなど合点がいきません。ただ命を狙うのなら行事とか移動中の方が可能性が高い筈。余程の自信があっても国事を預かる首脳を堂々と屋敷に押し入り襲撃するなど愚の骨頂です。奴等の組織には司令塔はいないのではないでしょうか」
そう、我が王国が本気を出せばそんな馬鹿みたいなごっこ遊びなど根本から一捻り出来るのだ。
だから王国側へ大義名分を与えないように、純血派も大袈裟に騒いではいるも王が動く程の大事には今まで至ってない。
「大きな組織だ。中には暴走する輩も出てこよう。国政も常に純血派の貴族達との化かしあいだ」
「ただの古代から流れる血統を神と信じてる狂信者どもの妄言は、何時になったら収まるのでしょうね」
元老院を始めとする国家の重鎮には多く純血派が跋扈している。
国政に影響力があるので、現王率いる穏健派も無下に出来ず頭を痛めているそうだ。そうでなければとっくに掃討作戦を決行している。
「だが、これは経典にも記させている記述。しかし、真の貴族は一二英雄の末裔だけでいいとはとても迷惑な話だ。そんな輩に遅れをとるとはわしもまだまだよ」
医師が唱える治療魔法がお父様の深かった傷を塞いでいく。深手を負うと回復にも針で縫う程の激痛を伴うが、呻き声どころか顔色も変えなかった。
「お父様が追い払ったのでしょ? ならその傷も名誉の勲章ではないですか」
「残念ながらわしは手も足も出なかったわ」
敵の主犯格を見送りながら、当たり前のようにお父様が撃退したと思っていた。
「ご冗談を。天下のノース伯を退けるものなどいないです」
「本当だ。わしの長年のパートナーも先に往きよった」
「レオパルドが?」
「ああ、敵との応戦で死なせてしまったわい」
異変に気づいたのか、我が父にパートナーのアレックスは心配するかのようにすり寄る。
それに答えるかのようにお父様は背を撫でた。
「では、誰がこの乱痴気騒ぎを納めたのですか?」
「正体は分からん。でも、確証はできんが多分、あれがダークナイトと騒がれている輩だ」
「……ダークナイト。私の学舎でも噂が拡がっています」
「どういう風にだ?」
「純血派を成敗する正義のモンスターテイマーとか、平和と秩序を守護者、または貴族に仇なす禍々しい存在などなど並べたらきりがないです」
噂というのは怖いものだ。各々の理想が働いて都合のいい存在に書き換わっていく。なので奴が持つ本来の性質はわかってない。
それでも噂は一人歩きする。人が多ければ多いほど本質は変わっていく。私の個人的見解だが一二英雄の神話もそうやって勇者から神に変わったと言えば説明はつくのではないだろうか。




