国家の歪み
正門まで獲物を狙った鷹のように駆け抜けると、そこには見知った人物が私の心を安定させる。
辺りはライトファント家が雇う私兵達が働きアリのように事後処理をしていた。捕まった暴徒達は暴れながらも連行されていく。
何故かモンスターの姿はない。連れていないのか殺したのか分からないが、お陰で賊も力を加護されてないから、大きな混乱にはなってなかった。
「はぁはぁ、お父様、一体これは何事ですか!?」
「マルギッテか」
私は父様の側に寄る。三編みを解いていたので癖毛気味の赤毛が舞う。
丸眼鏡を掛けただけの寝間着姿なので淑女としては羞恥心が多少揺り動くが、王国の騎士を授与された身としては家長の身を案じるのが常道。
「大変! お怪我をなさっている」
「大した事はない」
などと申されているが傷は深く、血が地面に流れ落ちている。
服が所々破けていて、爪で引き裂かれたような痕が生々しく刻まれていた。
お父様は王国有数のモンスターテイマーだ。若いみぎりには最強の職種ドラゴンナイトも経験している。
だから目を疑う。何故そんな怪我を負ったのか。
私は周りを見渡した。とても先程まで何か戦いはあったようには感じない程静かだ。
石畳の上に多数の血痕の痕跡がなかったら、幾らお父様の言葉であろうと私は信じなかったであろう。
「お父様、もう若くないのですから御自重くださいませ」
「純血派だ」
「え?」
聞く前に私の疑問に答えるお父様。
こちら側へ振り向くと篝火に照らされる。手入れが行き届いた白髭がまるで金色に染まった。
「わしを煙たく思う純血派が命を狙ってきた」
「愚かな。モンスターテイマーの名門、ライトファント家に楯突くなんてなんたる無謀なんでしょうか」
正式名称は純血貴族絶対主義派。成り上がりものや政府穏健派の要人を襲撃するカルト集団。ここ最近の活動が活発になった要因は現王が婿養子で血筋が十二神の系譜外と言われている。噂では現王否定派の元老院は純血派を組織して各地の不満を煽っていると言うが定かではない。
「奴等が掲げる迷惑な正義のせいで現実を見誤っている。古来より貴族達のそういった確執はあったが今に比べたら大したことはない。国作りに求められているのはそんなあるかどうかの血統ではないのにな」
「父様、何故そのような輩が我らが屋敷に押し寄せたのでしょうか?」
「決まっている、わしが現王派の幹部であるからだ」
お抱えの医師に患部を触れられて顔をしかめる。相当痛いだろうにそれでも当主として威厳を崩さない。
だから私や医師が座る事を薦めても頑として首を縦に振ることはなかった。




