圧倒的な力の差
「なんだと!」
「隊長、どうすれば!?」
「……副官、もう一度です」
「はっ!」
この常識の範疇を超えた事象をにわかには信じられないリーダーは、第二射撃準備を副官へ指示した。
スーパーレアクラスが十人以上いれば砦さえ落とす事は容易。それがたった一人に妨害される事などあり得ないのだ。
「消えなさいダークナイト!」
一斉に放たれる激しい魔法の集中砲火。火・水・風・土、色の違う四属性が粘土のように渦のようにマーブルカラーを形成する。
手応えを感じたリーダーは勝利を確信するとともに、力を入れすぎで握っていた両手をやっと開いた。着けている仮面の中は汗をかき過ぎて視界が悪かったから状況判断は頼りないが、これだけの事をやってただで済むわけはないと誰もがそう思う。
「…………………仕方がない。シルヴァーナ」
しかし、やっと口を開いたダークナイトは静かに指示。忽然と現れたシルヴァーナと呼ぶ謎の巨体モンスターは、全部の魔法弾を手のひらへ吸引した。
「なんだと!」
今この場で起こった事象に理解が追い付かず、純血派リーダーは呆然とする。思わず握りしめていたショートソードを地に落とした。
闇夜で実態は目視出来ないが、その巨体から実力はスーパーレアクラス以上だと伺わせる。
「何だと! 私達はスーパーレアクラスなんですよ! なんでそんなに一方的なんだ!」
「………………」
「有り得ない有り得ない有り得ない。純血の我ら手もでないなど有り得ないのです! お前ら手を抜きすぎです! 全力で攻撃するのです! 何がなんでも殺しなさい!」
だが、漆黒のモンスターは翼をはためかせると一瞬で一斉攻撃を仕掛けた全ての魔物を肉片にした。
「ひいいいい! 化け物!」
「こんなことなにかの間違えだ!」
「…………」
逃げ惑う純血派達。その中でリーダーだけはその場で項垂れた。完全な完敗である。
だがしかし、死を覚悟するも、興味を失せた獣のようにダークナイトは何も言わず去っていった。
――騒動鎮圧後。
「伯爵よ奴はなんなんです? 普通じゃない。あんな奴が何故、誰にも知られていないんだ?」
ノース伯爵の兵士に拘束されながら純血派の現場指揮者はそう分析。天を仰ぎ悪夢のような現実を受け入れる。
「さての、わしも分からん。噂には聞いているが何が目的なのかさっぱりだ」
「そうですか。ならば今回は自然の天災として諦めるしかないのでしょうね」
しかし口とは裏腹に、指揮官は悔いている様子はない。
それより別の事象に心を奪われていたからだ。
一匹たりともモンスターの痕跡がない変事に……。
 




