漆黒来訪
「終わりだ。降伏せよ」
「ええい! 何をしている大サソリ! 早くそんな縛を解きやがれ!」
「無駄なことだ。パートナーに名を付けない関係で我らに勝てるかな?」
ノース伯に殺気を感じなかった。侮っていると思った薔薇紋の賊は仲間に合図を送る。思い通りには行かない現状に苛立ちを覚えながら。
「俺様は神に最も近い貴族なんだ! 国や世界だけじゃない、時間と空間をも意のままにならないのはおかしすぎる」
「狂っておるの」
「反論の言葉は認めない。俺様がほしいのは合意のみよ!」
敵にどんどん押されてくる神と名乗る少年。
研鑽してきた熟練者ノース伯爵と大蜘蛛の連携攻撃に組伏せられた。
若き暴徒の仮面に手を掛けると、「伯爵どの 動かないでください。この者達がどうなってもいいのですか?」いつも間にか決着が着いていた賊達は倒れている兵士達の首筋を狙う。
「形勢逆転だなジジィ」
「卑劣な……」
「ひゃははは、戦いに綺麗汚いなんてないんだよ。勝てばいい」
大サソリのパートナーは蜘蛛の糸を斬ると、再びノース伯爵に襲い掛かる。
咄嗟に飛び出た大蜘蛛は主の代わりに犠牲になり、体を鋭い尾で貫かれた。
「済まぬ、レオパルド!」
「くそじじい、自分の心配したらどうだ?」
若い賊はノース伯爵が一瞬油断した隙に、「しまった!」懐に隠していたナイフで腕を傷つけ、寝技を強引に解き拘束から逃れた。
そのまま何度も傷つける。致命傷には至らなかったが自身の尊厳を回復させるには十分だった。
「これで最後だ!」
「これまでか。マルギッテ済まん」
大サソリがノース伯へ飛ぶように襲い掛かる。自慢の鉄の如く黒い尾がレイピアのようにしならせ、喉元目掛けて鋭い突きを繰り出す。
だが、思惑に反して大サソリの尾は跳ね返る。
伯爵の前に突如出現した謎の物体が行く手を遮ったからだ。
「誰だ!?」
「…………」
雲が途切れ月明かりが不審人物を照らす。
漆黒のレザースーツを身に纏った剣士。ショートソードを硬い石畳に擦り付けながら、暴徒達の前に立ちはだかる。
フードを深くかぶり容姿は確認出来ないが、時折不気味に反射する瞳が人間だということだけは理解した。
「名を名乗りなさい。我らを純血貴族絶対主義派と知っての狼藉か。革命を邪魔する者は関係ない一般人でも容赦しないですよ」
「……………………」
異様な雰囲気に危険を察知した純血派の実行リーダーは警告するが、対して謎の黒ずくめは沈黙を守る。
使役しているモンスターは連れていないのか小型なのか目視での確認は出来なかった。
「俺様の邪魔をするとは良い度胸だなぁ! てめえから血祭決定だ!」
「待ちなさい、何処かで見たことがある」
「ひぁははは! そんな事はどうでもいい。俺様は早くお父様から新調してもらった剣を試し斬りしたいんだ!」
薔薇紋の賊が放った一撃は空を切り、「…………」謎の存在は適当にいなした。




