環境が恵まれているだけで、運のいい一発芸の愚か者共はよく囀ずる
「四大公爵家でムーンレイクの領主の子息がこの様では、我らも笑い者にされて肩身が狭いんだよ!」
「くきき、言い方にトゲはあるが気に触ったのなら謝る。この場は納めてくれまいか? この通り」
我輩は頭を深々と下げる。貴族にはあるまじき行為だが、元サラリーマンにとっては日常茶飯時、頭を下げる如きに躊躇や後悔など一切ない。
何故なら土下座を始め、足を舐めるのことさえ平気でできるように実戦経験を踏んでいるからだ。それが前線で矛を振るう企業戦士というもの。
「黙れ。この紛い物の貴族が分をわきまえろ! モンスターイコールテイマーの力なんだぞ。使役も出来ないクズがレアクラスの我らに勝てると思っているのか!?」
そう、モンスターと使役している者の力とリンクしていた。即ちクラスが上級なモンスター程テイマーの力も上級になる。
奴のモンスターはレアクラス。前世でいうとアスリートかレスラー並みの能力を引き出せるのだ。
「思ってもないし、我輩的には戦う気は更々持ち合わしていない。と言うわけでそろそろ昼食をとりたいのだが、そろそろ解放してもらえないだろうか?」
わざとらしく腹を押さえる。
この子達は昼食が如何に大事な儀式か分かってない。サラリーマン時代、心身ともに疲れた気持ちを誤魔化為、キッチンカー巡りをマイスターのように極める。
お陰様で我輩のブログはグルメリポートと化した。
「この薄気味悪い包帯野郎が!」「大方、モンスターに噛られてばかりで治らないのだろうよ」「お前などモンスターの餌がお似合いだ」
無像無像の取り巻き連中がぴーぴー小鳥のように囀ずる。
多少言い過ぎだが、当たらずとも遠からずの気もする。前世でもそうだが生き物好きは生傷が絶えないのだ。
「くききき、卿よ、それは仕方なし。我輩のモンスターに対する愛はとても深い。俗人が関与する間などないのだ」
何故人間という奴は己の優れているところをひけらかすのだろうか。ただの一発芸ではないか。モンスターと契約出来るぐらいで他が最低では、王国が率先して無能を量産しているだけだ。
「俺を俗人と言ったな!? モンスターと契約も拒絶された悪魔の分際で!」
「…………っ!」
我輩は豪快に突き飛ばされた。
二階から落とされる位の高低差。咄嗟に頭をガードしたから致命傷にはならない。それでも転げ回った。
「当然の報いだ!」
「くきき………………流石に目が回ったぞ」
「この学園のゴミが。生かしてもらっているだけでもありがたく思え!」
下賤な輩達はそう吐き捨てて教室から立ち去る。
我輩はボーリングの玉の気持ちを理解しながら仰向け、大の字になった。小人に張り付けにされたガリバーではないので立つことは可能。
それと予想通り、我輩に手を差し伸べる者は一人もいなかった。集団生活をする上で臭いものには蓋、または見て見ぬふりする。生物が生存本能的に身に付けたサバイバル戦術。なので彼らは悪くない。
それよりも我輩の師ドクトルにも困ったものだ。
既にいなくなったクラスメイトの余韻を目で追いながら、痛くもない箇所を擦り三文芝居は続く。




