3、ヒロイン’sは共闘する
久々に大きな町に到着し、勇者パーティーは目立たない場所にある宿をとった。
マディラがいなくなったから部屋割りで一悶着あったが、最後はジェシカの一人部屋と言うことで話がついた。あとは二人部屋だ。
妹と泊まりたい兄と恋人……いや主君を同室となり守りたい聖騎士の攻防に、正直嫌気が差したナディアとランは早々にその戦いから身を引いた。
「しっかし、まさか聖女サマがわたいなんぞとの同室を認めるとは思わなかったよ」
わざとらしく胸の下で腕を組み笑いかけるランを見つめたナディアは、行儀悪く勢いよく自分のベッドに腰かけた。
「私の前でそんなことをしなくても良いですわよ」
「そんなこと? ああ、これかい?
男たちは、みんなこれに釘付けさ」
腕組みしたまま、持ち上げる胸は量、質感ともに羨ましくなるほどだった。
「そんな顔しなさんな。聖女様は清貧を良しとされる。その儚げな真っ白い肌と美人な顔があれば、多少ボリュームがなくても男なんかコロッといくよ」
健康的に日に焼けた顔をニヤリと笑ませてランは笑う。
「貴女には分かりませんわ……」
「えぇえぇ、分かりませんね。調律神様の神殿で聖女として認められた貴族出身の貴女さまのようなお綺麗な女の考えることなんか、分かりたくもない」
「…………勇者様は渡しませんわよ。ただ……」
「私だってあんなごみ溜めから救い出してくれた相手を逃がすつもりなんかないね。ただ……」
「「貴女よりもジェシカが強敵過ぎる」」
二人の声が意図せず重なった。
「貴女も?」
「そっちもかよ」
「ジェシカがいる限り、ドムサ様は誰にも目をくれませんわ」
「ベッドに忍び込むのは簡単だけどね。その後が続かないなら駄目だよね」
「破廉恥ですわよ!」
「またまた、聖女サマだって人だろう? 一度や二度は同じようなことを考えて……」
「お黙りなさい!!」
身を乗り出すランを押し返しながらナディアは怒りをあらわにした。
「おじょーひんなことを言ったって無駄さ。
久々の休みだ。ドムサはきっとジェシカにぴったりくっついて離れないよ。だからさ……」
どこからともなく取り出した琥珀色の液体が満たされた瓶を目の前に翳す。
「本音で話そうじゃないか」
「…………ヒック。
勇者様ぁ……どうしてですの? 何故、わたくしを選んではいただけないのでしゅか」
宿屋には完全に出来上がった美少女が一人。
「ドムサのばかぁ。ばかドムサ。朴念人の鈍感男ぉ。こんなにかわいいおんにゃのこたちに言いよらりぇてるにょにぃ、にゃんでスルーできるのよぅ」
床に転がる酒瓶の数がその酩酊具合を物語っていた。
「ふふ、聖女サマ。すっかり酔っぱらっちまって。普段は水で割ったワインしか飲まないお方だし仕方ないのかねぇ」
顔を赤らめつつも呂律は回っているランが、すっかり酔いつぶれたナディアを介抱している。
「りゃんさん!!」
「誰だい、リャンって……ああ、ランか。ほら、落ち着きなって。水飲みなよ」
「ほんにぇで話そうといったのはあにゃたでしゅ」
「あー、はいはい。わたいが悪かったよ。こんなに弱いとはねぇ」
「りゃんさんは、悔しくにゃいのでしゅか?」
絡み酒の聖女の背中をポンポンと叩き宥める。
「……わたいは所詮、スラムの泥棒さ」
「うぅ~、そんなのかんけーないでしゅ。
そうでしゅわ。ジェシカがいるから、ドムサが私たちに目を向けにゃいなら、ジェシカが消えればいいのですわ」
「おい、落ち着けって。それじゃマディラの二の舞だよ。ジェシカに悪意を向けた途端に、ドムサがキレるって」
「悪意じゃありませんわ!
フレデリックですわ!!」
「ん? あのなんちゃって聖騎士の?」
「うふふ、フレデリックをナンチャッテとか腹黒とか呼ぶのは、リベルタ広しといえど、ランとマディラくらいでしゅわ」
酔いの勢いでか、拳を握ってフラフラと立ち上がったナディアは気勢を上げる。
「フレデリックとジェシカをくっつけちゃおう大作戦をするのでしゅわ!! そうすれば、勇者様だって妹離れをするしかないのです!!」
「落ち着けって。今だってもう少しでくっつきそうだろ、あの二人」
「ふふふ、あみゃい! あみゃいでしゅわよ!! りゃんちゃん!!」
ビシィィィと指を突きつけられて、仰け反ったランを追って酒臭い顔面を近づける。
「それはもう、二度と離りぇならいくらい、ラッブラッブのあっま甘にくっつけるのですわ!! そうして悲しんだ勇者様をお慰めするのでしゅ!!」
「…………ふーん、面白そうだね。でもそれで良い目を見るのは聖女様だけだと思うけど?」
「りゃんは今日から盗賊ではにゃく、賞金稼ぎを名乗れば良いのです。勇者様の側にはトリャブル有り!! とりゃぶるの側には、賞金首ありですわ!」
「いや、だから落ち着けって。意味わからん」
話の飛躍に呆れたランはもう寝せてしまおうと、ナディアからコップを取ろうとしている。
「いやでしゅ! まだ飲むのでしゅぅ。
勇者しゃまほどのお方なりゃば、大願をはたしぇば、二人……いえ、五人や十人くりゃい、妻がいても不思議ではありましぇんわ。
だから、りゃんしゃん! 協力しましょう。ジェシカを退場しゃせるのです!!
わたくしとあにゃた、どちらが正妻の座をいとみぇるかはその後の勝負でしゅわ」
酒瓶ごとランの腕を抱え込んだナディアは、満面の笑みを浮かべている。
「それは同盟ってことかい?」
「ええ! そうでしゅわ!!
りゃんしゃん! 同盟を結びましょう!! お互いの共通の邪魔者の為に!!」
「………………んー。
ジェシカの幸せの為だったら、ドムサも怒れないかねぇ」
理性が飛んでいる聖女とは裏腹に、ランは冷静に同盟が発覚した時の対処を考えていた。
「りょーかい。分かったよ。今日から私は賞金稼ぎだ。ナディア、協力しよう」
しばらく考えたランはナディアに手を差し出す。酔って翌日には全て忘れているのでないかと疑いながらも、自身の過去を改竄しつつ邪魔者を排除する良い機会だと思っていた。