5王宮で
その頃王宮内では大変な騒ぎとなっていた。
崖から身投げをしたアイリスを巡って諍いが起きていた。
王女殿下のパーティーにて起きた事件は、一瞬にして社交界に広まり。
王族の親族であり公爵家のマラドーナ家は四面楚歌となっていた。
「公爵、貴方は御息女にどうのような教育をなさっていたのかしら?まぁ我が息子も似たようなモノですが…私の失脚を狙っていたのかしら?」
「まったくですわ。国家反逆罪にも等しくてよ」
冷ややかな目を向ける王妃にその娘である王女が睨みつける。
口調こそは丁寧だが、少しでも間違った発言をすれば首を斬り落とされかねないだろう。
「この度の不始末はどうつけますの?クレモンティーヌ侯爵令嬢が自害なさった件は」
「申し訳ありません!」
「あら?謝れば済むのですか?では貴方を今ここでギロチンの刑にしても謝れば水に流されるのかしらね?」
「なっ!」
一歩、一歩足を踏み出すのは威厳を放つこの国の第一王女ベアトリーチェだった。
「アイリスは私の妹のような存在。彼女を軽んじることは私を軽んじること…公爵、貴方の考えは解りました。残念ですわ」
「お待ちください王女殿下!」
「レジーナ嬢、貴方には失望いたしました。二度と私の目の前に現れることは許しません」
真っ青になり、ベアトリーチェに怯える。
「クラハドールと駆け落ちがしたいならどこへでもお行きなさい?ウィリアムのしたことは許されませんが婚約者がいながら他の男と関係を持つ貞操観念のない令嬢など論外です」
「なっ…レジーナ!」
娘の所業を知らなかった公爵は絶句した。
「あげく、アイリス嬢の育てた庭園で密会など、何処まで面の皮が厚いのかしら?不愉快ですわ…直ぐにこの国から出てお行きなさい?良かったですわね?真実の愛とやらを見つけ二人仲良く夫婦になれますわ」
にっこりと微笑みを浮かべるベアトリーチェは悪魔の微笑の如く恐ろしかった。
それほどにまで怒っていたのだ。
レジーナはこれほどまでの辱めは受けたことがないが、密会場所に使っていた庭園がアイリスが手入れをしていたなんて知らなかった。
「もし万一にでも彼女の死亡が確定すればあなた方は死刑ですわね」
ぞくっと背筋が凍り付く。
貴族の中でも高位貴族であり実力主義を貫くクレモンティーヌ家は外交官としての名を馳せているので、その娘を死なせたとなればどうなるか。
「貴方を罪人としてこれより二か月間の投獄を命じます。裁判が終わるまでは出ることも叶いませんわ」
「あっ…ああ」
「もしアイリス嬢の遺体が出てくれば罪人です。そうなった時は…」
扇で顎を上げて告げる。
「即刻殺してくれるわ…この娼婦が」
「っ!!」
レジーナにしか聞こえないように耳元で囁く。
余りにも恐ろしくそこ冷えする程冷たい声にレジーナは恐怖のあまり言葉を放つことができなかった。
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その頃、クレモンティーヌ家では必死でアイリスの捜索が行われていた。
「アイリス!頼む返事をしてくれ!」
「お嬢様ぁぁぁ!」
クレモンティーヌ家総出で探していた。
そこには警備隊に騎士団も一緒になって血眼になって探していた。
「アルバート様!少しお休みください」
「こんな時に休めるか…妹が…アイリスが!」
クレモンティーヌ侯爵家嫡男であり、アイリスの兄アルバートは公でも有名なほどのシスコンだった。
妹をとにかく溺愛していた。
故に…
「クラハドールぶっ殺す…絶対ぶっ殺す」
可愛い妹が万一に出も死んだら元婚約者とその一族全員を殺してやろう決めていた。
「アイリス!今すぐお兄様が助けてあげるからな!!」
「アルバート様!落ち着いてください!!」
勢いあまって川に身を投げそうになるのを部下達は必死で止めに入る。
普段は非常に有能だが、妹が関われば暴走するアルバートだったが、その上を行く男がいる。
「旦那様!いけません…おやめください」
「アイリス!今すぐ行くぞ!」
アルバート同様に川に飛び込む寸前の男、ジオルドだった。
彼も娘を溺愛していた。
何せ亡き妻の忘れ形見でもあったのだから。
「ええい!離さんか!」
「落ち着いてください、貴方が飛び込んどうするのです!」
クレモンティーヌ家では蝶よ花よと溺愛されてきた娘が自殺を図ったことで大混乱となっていたのだった。